ブリーフを埋めて競争⁉︎ 有機農業国フランスでの土の育みかた
皆さんは“ブリーフ”と聞いて、下着以外の使い方が思い浮かぶでしょうか。実はフランスの農業界で、ブリーフが密かなキーアイテムになっています。今回は農業とブリーフ、一体どんな関係があるのか探っていきましょう。
有機農業に熱心なフランスと国民の意識
ブリーフと農業の関係に迫る前に、フランスの農業事情について押さえておきましょう。フランスではどこのスーパーへ行っても所狭しとオーガニック商品が並んでいます。日本では、主に“身体に良いから”という健康志向をきっかけに、徐々にオーガニック商品を扱うスーパーが増えてきています。しかし、フランスでの導入のきっかけは少し異なりました。
フランスがオーガニック導入にむけて動き出したのは第二次世界大戦後。農薬や化学肥料を使う慣行農法で環境汚染が深刻化したためです。農業大国でありながら農業存続の危機に直面したことから、自然の力を活かすオーガニック、つまり有機農法の推進が始まりました。実は健康に良いという以前に、環境への配慮という理由が導入のポイントでした。今回のブリーフと農業の関係にも、このような環境問題への視点がしっかりと反映されています。
ブリーフを埋めて分解具合をチェック!
フランスでは数年前から、各地で農業にブリーフを活用する試みが実施されています。農業にとって欠かすことのできない土壌と密接な関係があるのですが、一体ブリーフを使って何をしているのでしょうか。
実は、土壌の豊かさをチェックする方法としてブリーフが一役買っているのです。その方法はとてもシンプル。畑を15cmほど掘り、そこにブリーフを埋めて2ヶ月後に分解具合をチェック。原型を留めないほど分解が進んでいれば、その畑は豊かな証拠です。実際に使用されたブリーフを表彰する地域もあり、優勝者には「金のブリーフ賞」(Slip d’or) が授与されます。各農家が一斉に実施し、豊かな土壌を表彰するというイベントは、密かに注目を集めています。
また、「フランス環境エネルギー管理庁(ADEME)」は、この活動を牽引している公的機関。SNSで 「#planttonslip(ブリーフを埋めよう)」で検索するとフランス全土で行われているこの取り組みをチェックすることができます。
ポイントは、コットンブリーフを使うこと。コットンは植物由来、つまり有機物のため微生物やみみずの餌となります。ブリーフを使うもう一つの理由は、ゴム部分が有機物でないこと。分解が進むと掘り起こしが難しくなりますが、ゴムは分解されずに残るため発見しやすくなります。
また、ブリーフを埋めるメリットは、そのシンプルさにあります。土壌チェックを専門家や特殊な機材に頼ることなく農業者自身で実施できます。ブリーフはチェックのため掘り返すので、汚染原因になることもなく、環境負荷もゼロ。むしろ地中の生物にとっては、栄養が舞い込んでくるのでwin-winの関係といっても良いかもしれません。
また、シンプルな手法ゆえに教育現場で取り入れられることもあります。ある学生たちが干ばつのあった土壌で実験したところ、掘り起こされたブリーフは元の形のままだったことから、干ばつが土壌にもたらす影響が顕著であることがわかりました。環境問題への関心が高いフランスにとって、天然素材のブリーフの活用は、まさにピッタリな方法といえるでしょう。
日本でもできること
さて、今回の事例から私たち日本人が学べることは何でしょうか。この活動を呼びかけているフランス環境エネルギー管理庁(ADEME)の資料には、1cmの深さの土ができるには300年〜500年の月日が必要だと記されています。
つまり、10cmであれば最低3000年、20cmだと6000年以上の歳月がかかるということ。普段私たちは当たり前のように畑から採れた野菜や果物を食べていますが、それらを育む土壌ができるまでには、気の遠くなるような長い歳月を要することが分かります。こうして改めて考えてみると、食糧の存在がいかに尊いかを想像できるのではないでしょうか。
日本では食事の時に「いただきます」と言う文化があります。目の前にある食材に対して命を頂戴する、という意味に加え、育んでくれた大地への感謝も込めて「いただきます」と口にしたいですね。
さて、ベランダや庭で家庭菜園をやっている、またはやってみたいという方は、この機会にコットン生地を埋めて土壌チェックを試してみてはいかがでしょうか。また、生ごみで堆肥を作るコンポストに挑戦して、微生物の力を実感してみるのも良いですね。
なかなか栽培は難しいという方は、食材をなるべく無駄にしない工夫を改めて考えてみましょう。野菜室に入っているにんじん1本は、計り知れない歳月の賜物として収穫されています。特売だからといって手を伸ばす前に、食べ切れるかどうかをよく考えてから購入したいものです。また、普段捨ててしまう野菜の皮は、まとめて「ベジブロス(野菜だし)」にするのもおすすめです。お味噌汁やスープとして、栄養価の高い皮部分も余すことなく活用できます。
ブリーフの意外な活用法から、食糧を育む土壌の奥深さをご紹介しました。改めて、日々頂ける食事のありがたさに感謝し、まずは食べ物を無駄にしないことから一緒に取り組んでいきましょう。