ミシュランレストランも登場。ヴィーガンにまつわるフランス人の考え方

最近日本でも耳にすることが増えた”ヴィーガン”というワード。もともと宗教上の理由で肉食を控える人たちの選択でしたが、近年はライフスタイルとして取り入れる人が増えています。フランスでもじわじわと注目する人が増えているヴィーガンについて、今回はフランスのヴィーガン事情をピックアップします。

動物や環境問題の観点からヴィーガンを選択

ヴィーガンは肉や魚の他、たまご等の乳製品も一切摂らない完全菜食主義者のこと。実はフランスは他の欧米諸国と比べ、ヴィーガン人口自体は少ないそう。肉食をしつつ野菜もしっかり摂る方が、健康被害が出にくいと考えられていることが影響していると言われています。
しかし、ここ3年でヴィーガンやベジタリアン関連の消費が毎年2割近く増加しているフランス。その背景には大きく2つ、環境問題とアニマルウェルフェア(動物福祉)があります。
まず環境面では、地球温暖化や森林破壊への影響。実は畜産業のCO2排出量は車や船、飛行機等の輸送機関を上回る量なのです。このままだと2050年にはCO2排出量の50%が、農業由来になると言われています。
森林破壊も畜産業と密接な関係があります。アマゾンにおける森林破壊の90%以上が畜産業の影響で、毎秒サッカーグラウンド1つ分の熱帯雨林が伐採されています。これを受けフランスの大手スーパー「カルフール(Carrefour)」は、2021年にアマゾンの森林破壊と関連のあるブラジルの食肉業社との提携を解除しています。

動物の“ビヤンネートル”も大切に

近年、家畜が少ないストレスで健康的な生活ができる飼育方法を目指す、というアニマルウェルフェアに即した考え方が注目を集めています。大量生産のため狭いゲージに閉じ込めらたまま一生を送るというような、動物としての生きる権利を無視した近代の畜産の在り方を見直す動きが欧米各国では進んでいます。そして、さらにもう一歩踏み込んで、アニマルウェルフェアを最も追求した形がヴィーガンと言えるでしょう。
このように、環境配慮や動物福祉の視点から、ライフスタイルの一つとしてヴィーガンやベジタリアンという選択をしている人たちが増えています。

星付きレストラン「ONA」が話題に

ヴィーガンと聞くと、「制限が多く大変そう」「美味しいものをちゃんと食べられるの?」と少し不安に思うこともあるかもしれません。しかし、2021年にはフランスのヴィーガンレストラン「ONA」がミシュランの星を獲得し話題となりました。2016年にオープンし、少しずつ評判となってきたこのレストランは、メニュー全てがヴィーガン。「ONA」によるミシュランの星獲得は、ヴィーガンでも“美味しさ”を追求できることを証明したのです。

そうは言っても、毎日星つきのレストランに通うことはできません。そこでフランス人が目をつけたのが、なんと和食。和食には精進料理という動物性食品を口にしない食事法が古くからあるため、ヴィーガンの人たちが注目するのはごく自然なことだったのかもしれません。豆腐など植物由来のたんぱく源が豊富な上、乳製品もほとんど使わない和食。そのため、和食のレシピ本がヴィーガンレシピ集として出版されたり、環境や動物福祉を考えるヴィーガンの人たちの間で支持されています。

この他にも、フランスの各企業ではこぞってヴィーガン対応商品やサービスを展開しています。「スターバックス コーヒー」では今年3月から植物性ミルクのカスタムメイド無料化を開始。マカロン発祥パティスリーとして有名な「ラデュレ」、そして「ピエール・エルメ」もヴィーガン対応商品を開発しています。また、ヨーグルトでお馴染みの「ダノン」は、国内の大型工場2つの内、1つをプラントベース専門に切り替え、更なる市場拡大を見据えています。

“完全な”ヴィーガンでなくとも、毎日の選択を変えてみよう

日本では、まだライフスタイルや信念によって食の選択をする人は比較的少ない現状です。一見、実践するのは難しそうに感じられるヴィーガンでも、試してみることは気軽にできるはずです。まずは1日実践してみることで、多くの発見があるのではないでしょうか。

もし、朝ごはんに食パンとカフェオレが定番だったなら、どちらにも乳製品が使われていることに気がつくでしょう。夕飯を作るときも、野菜のみのメニューを考えなければならないのには戸惑うかもしれません。その一方で、肉や魚のありがたさを実感したり、今まで知らなかった野菜の旬が分かるようになったりと、まるで住む世界が変わったかのような新しい発見が得られるはずです。

「ヴィーガンは難しいけど、乳製品OKのベジタリアンなら試せそう」と思う場合は、ぜひスーパーで平飼いたまごやグラスフェッドバターがあるかチェックしてみましょう。割高感は否めませんが、月1回は平飼いたまごを選ぶ、というのも立派な動物福祉への貢献です。その数百円の差が、動物たちが健康で快適に過ごせるかを左右すると考えてみると、金額差への価値感が変わるかもしれません。

最後に、“フレキシタリアン”という考え方をご紹介。“フレキシブルなベジタリアン”を意味する造語で、基本はベジタリアンでありつつ、外食では肉や魚もOKなどマイルールを設けるスタイルです。環境問題や動物福祉に関心はあるけど、「そこまで信念を貫けるか不安」「みんなと同じものが食べられないのも困る」という方も、フレキシタリアンなら始めやすいですね。


肉や乳製品を食べる・食べないに関わらず、まずは目の前の食事に感謝することを忘れず、大切にいただきたいものですね。その上で、次の週末は1日だけヴィーガンにチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

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