テルマリズム

テルマリズム
Thermalisme/Thermalism

テルマリズム(Thermalisme)とは、温泉水を使用して病気の治療を行ったり、健康増進を図る療法のことです。クレノテラピー(Crénothérapie)ともいわれます。
クレノテラピーは「鉱泉療法」と訳され、「クレノ」はギリシャ語で「泉」や「湧き水」という意味の言葉です。また、温泉水を用いた治療は、Cure thermale(キュル テルマル)と呼ばれ、「温泉療法」や「湯治」と訳されます。
テルマリズムは、治療を目的とするだけでなく、健康予防や美容、リラクゼーションのためにも広く活用されています。テルマリズムは、バルネオテラピーの一種です。

テルマリズムの歴史

温泉療法には長い歴史があります。古代ギリシアの医師ヒポクラテスは、温水浴と冷水浴が身体に与える効果に気づき、治療に用いたと言われています。また古代ローマでは、公衆浴場が多くの都市に建設され、人々の社交や娯楽の場として親しまれていました。南フランスのアルルには、古代ローマ時代の公衆浴場跡が残っています。

ヨーロッパには多くの温泉地が存在し、温泉水が治療に活用されてきました。イタリアやドイツに次いで、16世紀にはフランスでも温泉療法が治療を目的に用いられるようになります。
テルマリズムという言葉が初めて使用されたのは19世紀半ばのことです。

フランスには、現在も100以上の温泉施設があります。医療行為の一環として温泉療養が行われる場合には、公的医療保険が適用されます。また、温泉地には治療や療養を目的とするほか、リラクゼーションや美容、観光などを目的に現在も多くの人が訪れています。
2021年には、フランスのヴィシーを含むヨーロッパ7カ国11か所の温泉都市がユネスコの世界文化遺産に登録されました。

テルマリズムに必要なもの

テルマリズムでは、温泉水や鉱泉水といったナチュラルミネラルウォーター(l’eau de source)を使用します。天然のミネラルウォーターが湧き出る山岳地帯には、温泉施設が建設され、温泉地として発展してきました。温泉施設では、様々なプログラムが提供され、専門的な知識をもったスタッフによる治療や療養が行なわれます。

温泉療法では、温泉水をそのまま用いるほか、蒸気や泥、ガスといった様々な形態で温泉水を使用します。また、ハイドロテラピーの外的ケアと内面ケアを組み合わせて施術を行っていきます。

温泉施設にはプールや温水バス、ジェットバスにジェットシャワー、ミストサウナなどがあり、また、浮き具やダンベルなどを使った水中エクササイズ、ストレッチ、マッサージなどを行いながら、身体機能の回復や健康増進を図ります。

温泉水と泥を混ぜたパックを利用したり、ガス浴やエアロゾル療法、ナチュラルミネラルウォーターをそのまま飲用し治療に役立てることもあります。ミネラルが豊富に含まれるナチュラルミネラルウォーターは、健康予防や美容のためにも飲用されています。

フランスにおけるテルマリズム

フランスには多くの温泉施設があり、病気の治療や健康増進、リラクゼーションといった様々な目的で利用されています。
Station thermale(スタスィオン テルマル)と呼ばれる温泉地や温泉街には、温泉施設が建設され、施設内には温泉療法に必要な設備が整っています。温泉地には、温泉施設のほかにも、宿泊施設や飲食店、公園や遊歩道、劇場やスポーツ施設、カジノなどの娯楽施設があり、療養の目的だけではなく、観光やレジャーを楽しむ温泉リゾートとしても人々を惹きつけています。

フランスには複数の温泉地があり、温泉水や鉱泉水には特定の効能があります。温泉地によって泉質や効能が異なるため、治療したい症状や病気に応じて施設を選択することもできます。
南フランスのアヴェンヌ村には、テルマリズムセンターがあり、アトピー性皮膚炎などの皮膚疾患の治療に非常に有効であることが知られています。
フランス中東部のエクスレバンは、リウマチや関節障害、喘息などの呼吸器疾患の治療を専門としています。
フランス北東部ヴォージュ山脈のそばに位置するヴィッテル村の温泉地は、リウマチや消化器疾患、肥満や泌尿器疾患などの治療に効果があることで知られています。
そして、フランス中央部、温泉リゾート地として知られるヴィシーの温泉水は、重炭酸塩やミネラルが豊富に含まれており、変形性関節症やリウマチ、消化器疾患や肥満などの治療に効果的です。街には飲泉場が見られるほか、ヴィシーの温泉水は美容効果も高いと評判で、スキンケア製品なども販売されています。

温泉施設は、治療を目的とした療養の他、リラクゼーションや美容ケア、健康増進などを目的に利用することもできます。多くの温泉施設は数日から10日ほど続くミニプログラムなどを用意しています。
温泉地には、フランス国内にとどまらず、国外からも多くの人々が訪れています。

テルマリズムの効果

温泉療法は、変形性関節症やリウマチ、慢性腰痛やアトピー性皮膚炎、喘息や慢性気管支炎といった病気の治療や症状の改善、緩和に効果的です。身体が温まることで血行が促進され、痛みが和らいだり、浮力によって関節や筋肉への負担が軽減されます。

温泉水や鉱泉水にはカルシウムやマグネシウム、カリウムなどのミネラルが多く含まれており、皮膚から吸収するほか、そのまま飲用することで、有効成分や効能を体内に取り入れることができます。ナチュラルミネラルウォーターを使ったクリームやローションなどのスキンケア製品は、保湿効果に優れ、肌を整えたり、美肌効果も期待できます。

温泉には高いリラックス効果があり、ストレスを軽減させたり、睡眠障害の解消など、メンタルヘルスケアにも効果的です。温泉水の効能や温泉治療の効果は、身体的側面だけでなく精神的側面にも作用するため、トータルヘルスケアを行うことができます。

なお、温泉療法にも禁忌があります。心臓病や静脈不全症、伝染性疾患などがある場合には温泉療法は推奨されません。また、肌が弱い方や、体調が優れない時には、温泉療法によって症状を悪化させてしまうこともあるため、事前に医師に相談するなどして安全な治療や温泉利用を行いましょう。

医療との関係

温泉療法は、温泉水がもつ効能や特性を利用しながら、医療行為の一環として活用されています。変形性関節症やリウマチ、腰痛、皮膚疾患やアレルギー、肥満、アルツハイマー病や更年期障害、睡眠障害など様々な病気の治療に効果的です。

医師の診断のもと温泉施設で温泉治療を行うことをCure thermale(キュル テルマル)といい、12の疾患が指定されています。認定された温泉療養施設で一定期間継続して治療および療養を行う場合には、公的医療保険が適用されます。

療養期間は3週間にわたり、そのうち18日間は治療に充てられます。
療養中は温泉療法の専門的知識を有する医師(médecin thermal:メドサン テルマル)による監督のもと、治療やケアが行われます。
温泉施設には、水治療法士(hydorothérapeute:イドロテラプート)や運動療法士(kinésithérapeute:キネジテラプート)、看護師、栄養士などの専門スタッフがいて、医師と連携して患者のケアに当たります。
プログラムは通常、午前中または午後など半日以上行われ、それ以外の時間は食事療法やストレス管理について学んだり、サイクリングや体操、ウォーキング、ヨガ、アクアビクスなどのアクティビティに参加することもできます。もちろん温泉地を観光したり、リラクゼーションを図ることもできます。
温泉療法は、症状の改善や緩和を図るためだけでなく、投薬量を減らしたり、患者の生活の質を向上させるといった役割も果たしています。

日々の生活での取り入れかた

温泉療法は、温泉施設を訪れなくても、自宅のお風呂やシャワーを利用し、温かいお湯につかったり、水中マッサージを行うなど、日々の生活の中に取り入れることが可能です。温かいお湯は緊張をほぐし、心身ともにリラックスさせてくれるため、疲れがたまったときやリフレッシュしたいときに非常に効果的です。

また、温泉施設には、日帰り利用や週末コースといった気軽に利用できるプログラムを用意している場所もあり、気分転換やストレス解消などにも活用できます。

ナチュラルミネラルウォーターには、カルシウムやマグネシウムなどのミネラル成分が豊富に含まれており、飲用することで、便秘の解消や血行促進などの効果が得られます。また、ナチュラルミネラルウォーターを使用したスキンケア商品も販売されており、日常的な美容ケアに取り入れることもできます。

日本におけるテルマリズム

日本でも古くから、温泉が病気の治療に役立てられてきました。温泉地によって温泉水の性質も異なり、効能も様々です。関節痛や腰痛、肩こり、皮膚疾患、糖尿病、高血圧などの疾患を治療したり、痛みや症状を緩和するため温泉療養が行われてきました。温泉施設に長期間滞在して病気を治す療法は「湯治」と呼ばれ、日本には数多くの湯治場があります。

また、リフレッシュやリラクゼーションのために温泉を利用する人も多く、気分転換やストレス解消、日々の疲れを癒やすのに温泉は最適なケア方法として、幅広い年齢層に親しまれています。露天風呂は解放感にあふれ、自然の中で気持ちをリラックスさせてくれ、漢方などの薬用植物を入れた薬湯が楽しめる場所もあります。温泉浴場にプールやサウナ、ジェットバスなどが併設されていたり、温水浴と冷水浴が楽しめる設備が整った温泉施設もあり、様々な方法で温泉を楽しむことができるようになっています。週末などを利用して楽しめる日帰り温泉や手軽に利用できる足湯なども人気があります。

温泉療法は医療機関や介護施設などで変形性関節症や腰痛、神経痛などの治療や術後のリハビリテーションに取り入れられる他、生活習慣病の予防や介護予防などにも活用されており、温泉医療のさらなる発展が期待されています。
また、日本各地の鉱泉水や温泉水が販売されており、温泉水を使用したスキンケア製品も開発されています。

テルマリズムの費用

フランスでは、医師の診断により治療を目的として温泉療養を行う場合には、一定の条件のもとに公的医療保険が適用されます。日本では医療保険が適用されるには至っていません。
病気の治療を目的として湯治を行う温泉施設(湯治宿)では、利用客が長期に滞在し療養に専念できるよう、宿泊料金が安く設定されていたり、健康に配慮した食事の提供、自炊ができる設備が整っている場所もあります。

温泉は病気の治療にとどまらず、健康増進やリラクゼーションにも効果的です。
日本には数々の温泉地があります。観光を兼ねて温泉地へ赴き、温泉の効能を満喫しつつ、数日宿泊してゆっくりと心と身体を癒してあげるのもよいでしょう。
また日帰り温泉や足湯などを楽しむこともできます。日帰り温泉は、場所によって価格もまちまちですが、1,000円〜2,000円程度で利用できます。足湯や共同浴場などは無料で利用できる場所もあるようです。また、手形を発行し、複数の温泉を割引価格で利用できるサービスを行っている温泉地もあります。
温泉地を訪れなくても、温泉水の効能を体験することができます。温泉地で採れるナチュラルミネラルウォーターを飲用したり、温泉水を使用したスキンケア製品を取り入れてみるなど、毎日の健康づくりや美容ケアに活用することもできます。

テルマリズムと資格

温泉療法や温泉に関する知識を活かすには、テラピストとして活躍するほか、温泉事業や観光事業、医療や介護の現場などで活用することが考えられます。温泉療法を行うために国家資格は求められませんが、温泉の効果や入浴法、温泉療法に関する十分な知識が必要です。

民間団体が温泉や温泉療法に関する講座や研修を行ったり、資格の認定を行っています。
温泉を利用し健康づくりを図ることができる施設を「健康増進施設」と呼び、温泉利用や入浴に関する十分な知識を有した指導員を配置することが定められており、こういった施設で資格を活かすことも可能です。
温泉利用型健康増進施設には入浴設備や運動設備が整備されており、温泉療法の専門的な知識をもった医師や理学療法士などの指導のもと、温泉療養を行うことができます。
温泉療法は、温泉病院やリハビリテーション施設、介護施設などでも活用されています。

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