フィトテラピー

フィトテラピー
Phytothérapie/Phytotherapy

フィトテラピーとは、植物がもつ様々な働きにより日々の不調を改善し、心と身体の健康を維持していく植物療法です。植物の力は人間が本来持っている自然治癒力を高めてくれ、健康予防にも効果的です。暮らしの中に植物療法を上手に取り入れることによって、心身ともにより良い状態を保つことができます。
精油を用いるアロマテラピーや、植物の新芽を用いるジェモテラピーも、フィトテラピーの一種です。

フィトテラピーの歴史

植物を用いた自然療法には長い歴史があります。薬用植物は古代から、中国やインド、エジプトなど、世界各地で利用されてきました。

「フィトテラピー」の「フィト」は、ギリシャ語で「植物」を意味します。

古代ギリシアや古代ローマにおいても、ハーブは薬として治療に役立てられていました。ハーブを用いた植物療法は、長い間ヨーロッパの医療の中心だったのです。
やがて19世紀後半から近代医学が発展し、20世紀初頭に抗生物質が発見されると、植物療法は医療を補完する役割を果たすようになっていきます。

その後、薬用植物の研究が進み、薬理効果が科学的に証明されてくると、植物を用いた自然療法は再び注目を集めることになります。薬がもたらす副作用への不安や、より自然なものを取り入れた健康志向の高まりもあり、フィトテラピーは医療と併用されたり、セルフメディケーションのひとつとして、現在も重要な役割を担っています。

フィトテラピーに必要なもの

フィトテラピーでは植物全体、または植物の一部を用います。葉や花、茎、根、果実、種子、樹皮などを使用します。使用する植物や使用する部分によって、抽出方法や摂取する方法なども様々です。
フレッシュハーブや乾燥ハーブを煎じて飲むハーブティーの他、粉末やカプセル剤、錠剤等に加工する方法もあります。加工することで、ハーブの有効成分をより長い期間保存することが可能になります。
また、アルコールや水、油などに浸けて成分を抽出する方法もあります。例えば、ハーブをウォッカなどのアルコールに浸けて有効成分を抽出したハーブチンキは、うがい薬や湿布としての利用の他、入浴剤やスキンケアとして、また除菌スプレーなどにも使用できます。

その他にも、皮膚に塗る軟膏やクリーム、トリートメントオイルやハーブウォーターなどもあります。

フランスにおけるフィトテラピー

フィトテラピーは風邪やのどの痛みなどのちょっとした不調の改善や、免疫力を高めて病気の予防を行うなど、薬を使わずにできるセルフケアとして活用されています

「Herboristerie(エルボリストリ)」というハーブ専門店には、ハーブティーや精油、粉末やハーブチンキ、スキンケア商品など、数々のハーブ商品が並びます。「Herboriste(エルボリスト)」というハーブの専門家に、心身の不調やトラブルを相談しながら購入することができます。
また、薬局やBIOショップ、スーパーマーケットでもハーブ商品が販売されています。

フィトテラピーの効果

植物がもつ薬理効果は多岐にわたり、その活用方法も様々です。
身体に不調をきたしているときは、1つの悩みにとどまらず、複数のトラブルが重なっていることもあります。多様な成分を有するハーブはこうした身体全体の不調に、じっくりと働きかけてくれます。

例えば、カモミール。
カモミールには、抗菌作用や抗炎症作用、鎮痙作用、鎮静作用などいくつもの効能があります。消化器疾患に効果的で、胃腸炎や胃潰瘍、下痢や膨満感といった症状を改善し、胃や腸の機能を整えてくれます。
また、ストレス性の腹痛や月経痛を和らげてくれたり、リウマチや関節炎、捻挫や筋肉の痛みを緩和してくれる効果もあります。日焼けや虫刺され、湿疹など皮膚の炎症を和らげるのにも役立ちます。
粘膜や気管支の炎症にも効果的で、喉が痛い時にカモミールティーでうがいをすると痛みが和らぎます。殺菌効果もあるため、風邪などの予防にも効果的です。リラックス効果も高く、ストレスや不安を和らげ心を穏やかにしてくれるので、良質な睡眠をもたらしてくれます。

一方で、植物には強い作用や成分を有するものもあります。場合によっては症状を悪化させたり、人体に有毒になることもあります。妊娠中の女性や子どもには使用が禁止されているものもあります。
例えば、上記で紹介したカモミールは妊娠中の摂取は控えた方が良いといわれています。使用上の注意をよく読み、事前に医師に相談するなどして、安全な使用を心がけましょう。

医療との関係

フランスでは医師がフィトテラピーを行うことがあります。治療において、薬が飲めない場合や薬による副作用を減らす目的で取り入れられることが多いようです。主な疾患には消化器疾患や気管支疾患、皮膚疾患や睡眠障害などが挙げられます。

また、薬剤師やエルボリスト、自然療法士は、植物療法に関するアドバイスを行うことができます。風邪や疲れ、ストレスや消化不良といった比較的軽度の不調であれば、薬剤師やエルボリストに相談し、症状緩和や改善を図ることもできますが、治療のためにはまず最初に医師の診療を受けることが推奨されています。

日々の生活での取り入れかた

フィトテラピーは、日々の生活に取り入れやすい自然療法です。症状を和らげたり、体調を整える手助けをしてくれます。

例えば、フランスでは食後や就寝前、また体調が優れない時にティザンヌ(ハーブティー)を飲みます。リラックス効果があり精神を安定させてくれるもの、安眠効果の高いもの、消化を促進して胃の不調や喉の痛みといった症状を改善・緩和するものなど、その時々の体調によってハーブを選び、お茶を楽しみながら健康管理を行うことができます。
ビタミンを多く含むものや、脂肪燃焼、デトックス、エイジングケアに効果的なものもあり、美容効果も期待できます。

ハーブは料理にも使われます。香りのあるハーブをサラダに加えたり、肉料理や魚料理、ピザやパスタのソースにしたり。タイムやローリエ、パセリなど数種のハーブを束ねたブーケガルニは、煮込み料理に用いられるなど、使用法は多岐にわたります。お菓子作りに使うこともあります。
また、香りのあるハーブを乾燥させてドライフラワーにして部屋に飾ったり、サシェなどにして防虫剤としても活用できます。

日本におけるフィトテラピー

フィトテラピーは美容やリラクゼーションとして取り入れられるほか、心身ともに健康であるために日常的にできるセルフケアとしても注目を集めています。

日本でも、薬用植物は古くから生活の中に取り入れられてきました。植物で傷を癒やしたり、食することで滋養強壮を図るなど、薬用植物を使った療法は中国から日本に伝来した後、漢方として日本独自の発展を遂げます。やがて西洋医学が医療の中心となっていきますが、生薬や漢方薬を使った療法は現在でも民間療法として広く活用されています。

西洋ハーブの伝来とともにハーブティーやアロマテラピーが広く親しまれるようになると、ハーブや植物療法への関心も高まり、植物療法はいろいろな分野に広がりを見せています。森林浴などを行う森林療法、花や野菜を育てたりガーデニングを行う園芸療法、花を用いたイギリス発祥のバッチフラワーレメディーなども植物療法です。
また、植物療法はリハビリテーションや緩和ケア、認知症予防などを目的として、医療や介護の現場にも取り入れられています。

フィトテラピーの費用

フィトテラピーにはいろいろな療法があります。

フィトテラピーの中でも、始めやすいのはハーブティー。持ち運びに便利な個包装のティーバッグタイプや暑い季節に最適の水出しタイプなど、いつでもどこでもハーブティーを楽しむことができます。
価格はハーブの種類によっても異なりますが、ティーバッグなら約1週間分、茶葉は10gや15gというように少量から選ぶこともでき、1,000円前後で購入できます。複数のハーブがブレンドされたものや、お店で試飲できるところもあります。求める効果や味、香りなど、自分に合うものを探してみましょう。

ハーブは即効性のある薬とは違い、ゆっくりと身体に働きかけます。ハーブの専門知識のあるスタッフに相談したり、ハーブ専門店で購入するなど、自分の体質にあった安全で品質の良いものを選ぶことも重要です。
他にも、サプリメントなどの栄養補助食品やハーブチンキ、アロマを使ったトリートメントオイルや入浴剤、スキンケア商品など様々なものがあります。

フィトテラピーや薬用植物についての知識を深めたいという場合には、フィトテラピーの専門スクールや教室で学ぶこともできます。基礎知識を得られる講座から実践的な講座、1日体験講座もあり、目的や予算に応じて選ぶことが可能です。またフィトテラピーや薬用植物に関する書籍も販売されています。

フィトテラピーと資格

フィトテラピーの知識や技術を活かすには、フィトテラピストやアドバイザーとしての活躍が考えられます。講座やセミナーの講師としての活動や、教室を開くなど開業も考えられます。ハーブの専門店に就職したり、薬用植物の効能効果を活かした製品開発に携わるという道もあるかもしれません。

フィトテラピストとして働くために、国家資格は必要ありません。

しかし、ハーブを取り扱う際には薬用植物がもたらす作用や有効性、安全性などについて、十分な知識が必要になります。知識を習得するために、専門のスクールに通ったり、通信教育を利用することもできます。
複数の民間団体がフィトテラピーに関する講座を行ったり、検定や資格の認定を行っています。また、植物の薬理効果やリラクゼーション効果は、医療や介護の現場への活用が期待されています。メディカルフィトテラピストやメディカルハーブのカウンセラーとしての資格認定を行う民間団体もあります。

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