ルミノテラピー

ルミノテラピー Luminothérapie/ Light therapy

ルミノテラピーとは、光を照射することで身体のリズムを整え、心身の不調を改善し、健康を維持していく自然療法です。
冬に日照時間が短くなる北欧などでは、季節性うつ病の症状改善や予防にルミノテラピーが活用されています。

ルミノテラピーは光療法、高照度光療法、光線療法(Photothérapie:フォトテラピー)ともいわれます。光線療法とは光を皮膚に照射する療法で、乾癬(かんせん)などの皮膚疾患の治療に用いられます。

ルミノテラピーの歴史

太陽の光は病気を治癒し、人々を健康に導くものとして、古代ギリシアや古代エジプト、インドなど、様々な国で古くから崇められてきました。日光療法(Héliothérapie:エリオテラピー)は、太陽の光を用いた最初の自然な光療法です。

19世紀の終わり、デンマークの医師ニールス・リーベング・フィンセンは、光が人間の身体にもたらす効果に着目し、太陽の放射が組織を刺激し治癒することを発見しました。そして太陽光に近い光を生成できる装置を開発し、この光線を用いて尋常性狼瘡(皮膚結核の一種)をはじめとする皮膚疾患に苦しむ多くの患者を治療しました。彼は1903年にノーベル生理学・医学賞を受賞します。

その後1984年に、アメリカの精神科医ノーマン・E・ローゼンタールとその同僚らは、光と季節性うつ病との間に関連性があることを発見し、人工光を発する照明器具を用いた治療を試みました。数多くの実験を経て、2006年にアメリカの精神医学会は、人工光を照射するルミノテラピーが、いくつかの睡眠障害と季節性うつ病の治療に効果的である、との公式見解を示すに至ります。

フランスでも、ルミノテラピーは冬場のメンタルの不調や睡眠トラブルを改善する治療法として活用されるほか、セルフメディケーションや美容ケアとしても利用されています。

ルミノテラピーに必要なもの

ルミノテラピーでは、太陽光や人工的な光を照射し、生体リズムを整えます。
十分な効果を得るには、2,500ルクスから10,000ルクスの光の強さが必要とされ、通常、ルミノテラピーでは、10,000ルクスの光を60cm~70cmの距離で、毎朝30分ほど照射することが推奨されています。光の強さ、照射時間、ケアを続ける期間などは、症状によって変わります。

白色光は睡眠障害や季節性うつ病に効果があると言われ、最も多く利用されています。そのほか、ブルーやレッドなど色のついた光を使用することもあります。
光が目の網膜に届くよう顔に照射するライトが一般的ですが、治療の目的によっては身体の他の部分に光を当てるタイプのものもあります。

医療機関で専門の照射器具を使った治療を行うほか、自宅でケアができるよう、ルミノテラピー専用のライトも販売されています。人工的な光を照射するミラー型ライトや卓上ライトのほか、サングラスのようなタイプでブルーライトを目に直接当てるものなどもあります。また、光の明るさを調節するための調光装置がついているライトもあります。
ライトを購入する際には、紫外線(UV)を放出しないライトやUVカット加工がされたライトを選びましょう。

フランスにおけるルミノテラピー

フランスの冬は日照時間が短いうえ、曇りがちな日が続くため、秋から冬にかけてメンタルのトラブルが生じやすいといわれます。睡眠不足や疲労の蓄積、集中力の低下に加え、気分が落ち込んだり、無関心、やる気が出ないなど、冬季うつと呼ばれる症状で悩む人は多く、ルミノテラピーはこうした季節性うつ病や体内時計の乱れからくるトラブルを改善する目的で広く利用されています。

ルミノテラピーはクリニックや診療所で受けられるほか、ルミノテラピー専用のライトを購入し自宅でケアを行うこともできます。ライトは家電量販店、照明器具の専門店、医療用機器を取り扱う店やウェブサイトなどで購入できるほか、薬局やビューティーサロン、ウェルネスセンターなどでも販売されています。
フランスやヨーロッパでは、治療のために使用するライトは医療機器に分類され、法律により安全基準が設けられています。厳格な基準を満たすライトにはマークが表示されており、購入するときの目安になります。

ライトの使用方法はシンプルで、かつ家庭用ライトでもクリニック等で施術を受けるのとほぼ同等の効果が得られるという評価もあり、自宅でルミノテラピーを行う人も多いようです。光を照射しながら、読書やパソコン作業をするなど、日常の活動をしながら同時にケアできるのも自宅ケアが好まれる理由です。

ルミノテラピーの効果

光を照射することで生体リズムを整えるルミノテラピーには、さまざまな効果があります。
気分の落ち込み、疲労や睡眠不足、過食等の症状を伴う季節性うつ病(冬季うつ病)の症状を和らげ、改善する効果があります。
また非季節性うつ病や産後うつ、月経前症候群、高齢者にみられるうつ症状、その他の精神障害の症状改善にも効果があるといわれます。

ルミノテラピーによって、概日リズムが調節されるため、睡眠を促進する効果も期待できます。不眠や早朝覚醒などの睡眠障害の改善にも役立ちます。
時差ぼけによる不調の軽減や夜勤労働者の睡眠改善にもルミノテラピーが活用されています。
また、身体のリズムを正常に整えることによって、仕事の集中力が増したり、ストレス管理や免疫力を高める効果も期待できます。

その他、筋肉の痛みの軽減や傷の治療のため、にきびや乾癬といった皮膚トラブルの治療に、また炎症や慢性的な関節炎、しわや老化の予防などにも幅広く活用されています。

ルミノテラピーの副作用はほとんどないといわれ、頭痛やめまい、倦怠感や眼精疲労、不眠症状などが見られることもありますが、一時的なものと言われています。
一方で、ルミノテラピーでは光を照射するため、光に敏感な方や光増感剤を服用している場合、白内障や緑内障といった特定の眼の疾患を抱えている場合など、治療が推奨されない場合もあります。事前に必ずかかりつけ医や専門医に相談するようにしましょう。

医療との関係

ルミノテラピーは季節性うつ病や非季節性うつ病、概日リズム障害に対する治療法として用いられています。
精神科医や心理療法医、自然療法士、ホメオパシー医師(オメオパット)などにより、薬物療法を補うものとして用いられたり、他の治療法と併用されることもあります。

ルミノテラピーは、特に季節性うつ病の症状改善に効果があるとされています。抗うつ薬に比べ副作用が少ないため、薬と併用して使用したり、投薬量の軽減のために活用されているようです。治療は9月から10月に始まり、春まで継続して行われます。毎年冬に季節性うつ病の症状が現れる場合などは、予防のために利用することもあります。

また、妊娠や持病などの理由で薬物治療ができない場合や、薬物療法による効果があまり見られない場合、薬による副作用が強い場合に、ルミノテラピーが用いられることもあります。

なお、ルミノテラピーは医師の診断や診療に代わるものではなく、必ず事前に医師の診断を受け、医師の判断のもとに実施することが推奨されています。

日々の生活での取り入れかた

ルミノテラピーは季節性うつ病の症状改善だけでなく、予防にも活用できる自然療法です。
冬場にメンタルが落ち込みやすい、毎年冬になると同じような症状がでる場合などには、冬が近づく少し前から予防的にルミノテラピーによるケアを取り入れることも可能です。
また、オフィスなどの屋内勤務や工場内勤務など、日光を浴びる機会が少ない場所で働いている場合にも、ルミノテラピーを活用することができます。

ルミノテラピー専用のライトがあれば、自宅でも簡単にセルフケアができるため、秋冬の心身の体調管理にも活用できます。光を照射している間、雑誌や新聞を読んだり、読書をしたり、またテレビや映画、ドラマを見たり。音楽を聞きながらリラックスした自由な時間を過ごしながら、美容ケアとしての効果も期待できます。

ライトを購入しなくても、晴れた日に太陽の光を浴びたり、朝の光を意識的に取り入れるだけでも、体内リズムを整えることができます。
十分で良質な睡眠時間を確保し、体内リズムを整えることで、心身の健康や美容にも大きな効果をもたらしてくれます。

日本におけるルミノテラピー

人工光を用いた光療法や高照度光療法は、医療機関やクリニックなどで季節性うつ病や非季節性うつ病、睡眠障害などの治療に活用されています。
また、光線療法は乾癬やアトピー性皮膚炎、にきびの治療方法として皮膚科などで用いられています。美容面においては、家庭用のLEDマスクがアメリカや韓国でも人気を集め、日本でも美顔器などのジャンルで販売が開始されています。

一方、日常的なセルフケアや健康維持のためにルミノテラピーを活用することは、まだ一般的とは言えず、ルミノテラピーの認知度も高いとは言えません。
インターネット上のウェブサイトでルミノテラピー専用のライトや、概日リズムを取り入れた光目覚ましの購入が可能です。しかし、ライトの効果的な使用方法、安全性の保証、自宅で適切なケアを行うための情報がまだ十分に得られる環境とは言えず、また身近に相談できるテラピストや専門医がいないことなども、ルミノテラピーの活用を難しくしている要因といえます。しかし、今後スマート家電の普及とともに広がりを見せるとも言われ、今後の展開に注目が集まっています。

ルミノテラピーの費用

セラピーライトなどの照射器具には、ミラー型ライトや卓上型ライトなどさまざまなものがあり、金額も製品によってまちまちです。安価なものだと4,000円~6,000円ほどからありますが、1万円~2万円、それ以上のものも多くみられます。
フランスで自宅ケア用に販売されているルミノテラピー用のライトは、150ユーロから300ユーロが相場のようです。

製品の安全性や金額の妥当性、実際に十分な効果が得られるのかどうか、といった判断が容易でないこともあり、情報が少ない中で、セラピーライトによるセルフケアを取り入れるのは少しハードルが高いかもしれません。また、ルミノテラピーについての専門的な知識をもった医師やテラピストの不在、専門家の監督下でケアを続けることが難しいことなども挙げられます。

ルミノテラピーについて学ぶことができる書籍は少なく、海外の書籍や情報サイトから情報収集を図らなければならないのが現状です。

ルミノテラピーと資格

ルミノテラピーを行うために、国家資格は必要ありません。
日本では、まだルミノテラピーが普及しているとは言えず、テラピストとしての活躍の場やルミノテラピーの知識を習得するためのスクールや専門機関もほとんど見られないのが現状です。

フランスでは、ルミノテラピーを自然療法やリフレクソロジーなど他の療法と組み合わせて行うこともあるようです。

また、医療の現場では、季節性うつ病や非季節性うつ病、睡眠障害といった症状の治療や皮膚疾患の治療などを目的として、高照度光療法や光線療法が活用されています。

関連記事