「世界ミツバチの日」から学ぶフランスの養蜂活動と日本の取り組み

5月20日は「世界ミツバチの日」です。実ははちみつ以外にも、私たちの生活に様々な恩恵をもたらしてくれているミツバチ。今回は「世界ミツバチの日」とは何か、フランス・日本での取り組みについて見ていきましょう。

「世界ミツバチの日」のあらまし

「世界ミツバチの日」は、ミツバチの役割や重要性を認識するための日として、2017年に国連が制定しました。日付は近代養蜂の先駆者、スロベニア人養蜂家の誕生日に由来します。
さて、ミツバチの役割や重要性とは一体何でしょうか。ミツバチは花から花へと蜜を集めて飛び回ります。それは同時に花粉を運び受粉を促すことを意味します。この役割が植物だけでなく、私たち人間の生活とも深く関わっているのです。

世界規模で見ると、花粉を運ぶ生物(ポリネーター)の働きは作物総生産量の35%に貢献しています。また、世界の「主要食用作物」と呼ばれる115種類のうち、87種類、つまり75%に受粉をもたらしています。日常的に口にする食べ物、りんごやコーヒー、アボカドやかぼちゃといった食材は、全てポリネーターの恩恵があってこそです。

ポリネーターであるミツバチは、私たちに食料をもたらしてくれる上、品質の高さという付加価値まで提供してくれます。ミツバチが飛び回るおかげで、植物の間に遺伝子の多様性がもたらされます。異なる株の遺伝子同士が結びつくと、環境変化への適応度の高い子孫を残せるため、結果として生命力の高い作物が育ち、人間にとっては食料の安定供給を得ることにつながるのです。
はちみつだけにとどまらず、恩恵をもたらしてくれるミツバチですが、世界ではその数が減少する危機に直面しています。

農薬がもたらすミツバチへの影響

近年、「蜂群(ほうぐん)崩壊症候群」という、養蜂場などのミツバチが一斉に姿を消してしまう現象が世界各地で報告されるようになりました。原因はダニやウイルス、カビなどが挙げらる他、農薬の一種であるネオニコチノイドの影響も示唆されています。この農薬は、ミツバチの生殖能力や位置把握能力に悪影響を与えるほか、病気への耐性が落ちることが科学的にわかっています。

これに反応したのがEU。2018年4月に、ネオニコチノイド系の農薬3種類の使用を禁止しました。同年6月、パリではこれら農薬使用へのさらなる抗議として、養蜂家や環境団体がミツバチの”模擬葬儀”を行い、ミツバチの保護対策強化を政府に求めました。その後同年9月から、フランスではEUより更に厳しい規制が敷かれます。ネオニコチノイド系農薬規制を5種類とし、EUでは室内使用OKのところ、フランスでは室内使用もNG。ミツバチ保護の姿勢を強く打ち出しました。

フランスではもともと農薬の規制が厳しく、オーガニックや環境保護への関心も高い国です。ミツバチが私たちの食料供給や環境の維持に欠かせない存在ということを理解した上での法律だと言えるでしょう。残念ながら、日本ではこれらの規制がないのが現状です。

パリにおけるミツバチを増やすための取り組み

現在パリでは、たくさんの場所で養蜂が行われています。ルーブル美術館の”庭”であるチュイルリー公園、印象派の名画と出会えるオルセー美術館、”オペラ座の怪人”で有名なオペラ座ガルニエ宮、フランス革命の発端、”バスティーユ牢獄”の跡地にできたオペラ座バスティーユ、広大なリュクサンブール公園、ナポレオンが眠るアンバリット廃兵院など、至るところで養蜂が行われています。

なぜこんなにも養蜂が盛んなのでしょうか。実は、都市の養蜂はミツバチにとってうってつけの環境なのです。フランスの公園では人が集まることから、農薬の散布が禁止されています。パリの公園といえば先述したチュイルリー公園やリュクサンブール公園、またエッフェル塔前のシャンドマルス公園などたくさんの広い公園があります。また都市では工場による産業汚染の心配がなく、温度差の少ない気候もミツバチには適しています。パリ市内には約700の巣箱があり、3万~6万匹のミツバチが、元気にパリ中を飛び回っているのです。

銀座が牽引するミツバチプロジェクト

都市での養蜂は、日本でも見られます。有名なのは2006年に銀座でスタートした「銀座ミツバチプロジェクト」、通称「銀ぱち」。銀座エリアは街路樹が多く、さらに四方には皇居、日比谷公園、浜離宮とミツバチの採蜜場所が充実しています。また区として繁華街に農薬の散布を控えていることや、皇居は種の保存の観点から農薬を一切使わず管理されているので、ミツバチにとって快適な環境なのです。

銀ぱちの大きな特徴が、採れたはちみつを銀座で店を構える企業と協力して新たな商品として生み出すこと。これまでケーキやマドレーヌ、羊羹、大福やはちみつ梅など和洋の垣根なく幅広い商品がそれぞれの専門店から発売されました。はちみつを1瓶買って食べ切れる自信がなかったとしても、銀座でしか買えないはちみつ入りのスイーツやお菓子、と聞くと試してみたくなりませんか。
現在、銀座松屋では、5月23日まで「銀座はちみつフェア」を開催中です。銀ぱちとのコラボレーションにより、オリジナル商品を展開しています。一部オンラインストアでも購入が可能なので、気になる方はぜひチェックしてみてください。

ミツバチとの共存のためにできること

ミツバチがはちみつだけでなく、私たちの食料にも多大な影響をもたらしていることは、意外と知られていないかもしれません。「世界ミツバチの日」はこうしたミツバチの役割や重要性について、まずは知ることからはじめるきっかけの日です。ミツバチとの共存と聞くと刺されるのではないかと心配する方もいるかもしれませんが、基本的には何もしなければ刺されることはありません。むしろ、ミツバチがいるからこそ、私たちは安心して暮らすことができるのです。

たくさんの花々も楽しめる新緑の季節。ミツバチを目にした際は、彼らの働きに想いを馳せてみてはいかがでしょうか。

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