フランスの「すずらんの日」に見る働きかたとライフスタイル

フランスでは5月1日は「すずらんの日」として、愛する人へすずらんの花を贈る日です。また同時に、メーデーでお馴染みの「労働者の日」でもあります。今回は珍しくも2つの記念日が重なり合う、フランスの5月1日にフォーカスします。

街中にすずらんが溢れる5月1日

5月1日にパリの街を歩くと、至るところですずらんを持っている人や、売り歩く人の姿を目にします。すずらんの街に迷い込んだのかと錯覚するほど、街中がすずらんの花で溢れます。
もともと16世紀のフランスでは、5月1日は「愛の日」でした。草木で作った花冠や花束を男女で贈り合うなか、シャルル9世が側近から贈られたすずらんの花束に感銘を受け、そこから宮廷の女性たちにすずらんの花を贈るようになったことが起源と言われています。
「すずらんの日」には少しユニークな”特例”が存在します。当日は誰でもすずらんを売っていいという決まりがあり、花屋さんでなくとも街角で自ら摘んできたすずらんを販売できるのです。花屋さんからは100m以上距離を取ること、根は毒があるため、切り花として販売することなど多少のルールはあるものの、子どもたちでもちょっとしたお小遣い稼ぎが出来るのです。こうした背景のもと、5月1日は街中すずらんの花で溢れるのです。
ヨーロッパでは、すずらんは春を象徴するシンボルのような存在。白く丸い美しいフォルムは、「聖母マリアの涙」とも喩えられ、大切にされている花でもあります。香りも良く香水に使われたり、結婚式の花束として花嫁に贈られたりと、まさに幸せを表現する花。日本では春の花として桜がイメージされますが、桜の季節が過ぎた今、すずらんの花や香りに注目してみてはいかがでしょうか。

メーデーは労働環境や働きかたを見直す好機に

可愛らしいすずらんのイメージとは打って変わって、メーデーは先人たちに敬意を払わずにはいられない日と言えるでしょう。メーデーの始まりは、1886年5月1日に起きたシカゴでの大規模なデモ。労働時間を1日8時間にするよう、労働者たちが集結しました。デモを鎮圧しようと、警察が出動した結果、罪なき多数の人達が犠牲になったのです。
1890年、デモの犠牲者たちへ敬意を表して、パリで開催された第2回インターナショナル会議の場でメーデーが国際デーとして正式に定められました。こうした輝かしい一歩を踏み出したにも関わらず、翌年の5月1日、フランスでもシカゴ同様にデモ参加者から9名の死者が出る事件が起きてしまいました。現代を生きる私たちにとって、1日8時間労働は当たり前のように感じるかもしれませんが、その実現に向けて命がけで戦った先人たちがいることを想うと、ありがたみを実感せずにはいられないでしょう。


現在のフランスはというと、さらに踏み込んで週35時間労働、1日換算で7時間労働となっています。8時間労働の日本と比較すると、月に2日半休みが増える計算です。「生産性が落ちるのでは?」と心配になりますが、その分雇用を増やし1人当たりの負担を軽減しています。
フランス人の考え方として、「たくさん働き・稼ぎ・使う」という思考ではなく、あくまでも家族やプライベートの時間をたくさん持ちたいという考え方。まさに制度と個人の考え方がマッチしていると言えるでしょう。

また、最近では現在の働き方に則した制度も敷かれています。それが「繋がらない権利」。多くのビジネスマンがパソコンやスマートフォンといった社外でも仕事ができるデバイスを使っています。それに伴い、就業時間外に連絡を受けることもしばしば。そこで2017年に発行されたのが「繋がらない権利」です。勤務時間外の連絡には返信をしなくても良いとしており、休暇中だと分かっている人に対しては連絡しないことを推奨しています。こうすることで休日はしっかり休むことができ、心身ともにリフレッシュした状態で仕事に挑めるのです。

休むことも立派な義務として認められるフランス

この法律が施行される前にも、休日にきちんと休むことの重要性が問われた裁判がありました。2012年、フランスの最高裁で、ある会社幹部の解雇の判決が下されました。その理由は、日曜日に出勤したため。なぜ解雇かというと、雇用契約で決められている労働時間・日数を遵守することの拒否が、違反行為とみなされたのです。日本では休日を返上して会社に貢献することは美徳と思われる風潮がありますが、フランスではそれが解雇に繋がるというのは、文化の違いを感じずにはいられないエピソードです。

近年、デジタル化の推進やコロナウイルスの流行など、働き方の見直しを迫られる変化が続いています。フランスでは制度が充実していて良いなと感じるかもしれませんが、私たちはまず個人としてどのような考え方を持っているか整理することも大切です。理想の働き方は何か、優先順位をつける時に絶対譲れないこと、多少の妥協が許せること、全然気にしないこと、などはっきりと自覚できているでしょうか。それらをクリアにすることによって、国の改善を待たずとも今の職場でより働きやすくなるアイデアを見つけられたり、もっと自分と合う会社が見つかったりと、新たな発見に繋がるかもしれません。

すずらんを愛でながらライフスタイルについて考えてみよう

さて、今回はフランスの5月1日の記念日、「すずらんの日」や「メーデー」について見てきました。歴史ある記念日が同時に祝われるちょっと特別な1日。日本ではゴールデンウィークと重なるタイミングです。帰省や友人との再会に合わせて、すずらんの花やモチーフのギフトを準備してみたり、時間を取ってこれからのキャリアについて考える良いきっかけかもしれません。今年は「すずらんの日」や「メーデー」にも想いを馳せながら連休を過ごしてみてはいかがでしょうか。

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