ハイドロテラピー

ハイドロテラピー Hydrothérapie/Hydrotherapy

ハイドロテラピーとは水の種類や温度、形態を問わず、水を使用して行う治療法です。水治療法とも言われます。症状を緩和したり、身体機能の回復や健康予防を行います。

海水を用いたハイドロテラピーは、タラソテラピー(海洋療法)で用いられ、心身に多くの治療効果やリラクゼーション効果をもたらします。温かい水や温泉水を利用するバルネオテラピー(入浴療法、温泉療法)もハイドロテラピーの一種です。

ハイドロテラピーの歴史

ハイドロテラピーとは、ギリシャ語の「ハイドロ(水)」と「テラピア(治療)」を組み合わせた言葉です。
ハイドロテラピーの歴史は古く、古代エジプトや古代ギリシア、古代ローマにおいて、水を病気の治療に役立てていたことが記録されています。古代ギリシアの医師ヒポクラテスは、海水に筋肉の痛みや関節炎を治癒する効果があると考えました。古代ローマでは、共同公衆浴場が人々の生活に欠かせない憩いの場でした。

近代の水治療法がいつ頃から始まったかについては諸説ありますが、19世紀にハイドロテラピーの発展に貢献した人物として、オーストリアのヴィンチェンツ・プリースニツが挙げられます。彼は冷たい水を用いて傷を治す冷水療法を見出しました。
その後、自然療法士であったドイツのセバスチャン・クナイプは、自然の力によって人間の自然治癒力を高めることができると考え、ハイドロテラピーのほかに、フィトテラピー(植物療法)や食事療法などを加えたクナイプ療法を発展させていきます。

フランスでも、タラソテラピーや温泉療法が人々に親しまれてきました。ハイドロテラピーは治療や健康予防のためだけでなく、リラクゼーションや美容を目的としても幅広く利用されています。

ハイドロテラピーに必要なもの

ハイドロテラピーには使用する水の種類や形態、温度や施術方法など様々なものがあります。
海水や温泉水などを使用し、冷たい水や温かい水を用いた療法や、異なる温度の水を交互に使用することもあります。

お風呂やプール、シャワーやジェットバス、スチームバスによる施術のほか、温湿布や冷湿布、海水と海泥や海藻を混ぜ合わせたパックやトリートメント、マッサージなど施術方法も様々です。また、全身浴や半身浴、足浴など、身体を水に浸ける部分も施術方法によって異なります。

水が皮膚に直接触れる外的ケアの他に、内面からケアする方法もあります。蒸気やスチームを浴びながら吸入するエアロゾル療法にうがい、そしてミネラルウォーターを直接飲用する方法もあります。
また目的に応じて、ハイドロテラピーに精油やハーブの抽出液などを加え、相乗効果を図ることもあります。

フランスにおけるハイドロテラピー

ハイドロテラピーはタラソテラピーセンターやスパ、温泉施設や診療所、エステティックサロンなどで行われます。症状の改善や健康予防を目的として、またリラクゼーションや美容の目的で幅広い年齢層に利用されています。

タラソテラピーセンターやスパは海沿いのリゾートエリアに建設され、豪華な施設を併設していることが多いため、バカンスの時期や長期休暇を利用して疲労回復やストレス解消、日常生活からの回避などを目的に利用されます。健康増進や美容、ダイエットなどのために利用する人も多く、施設では水治療法やマッサージなどの専門的知識や技術を有するスタッフにより様々なプログラムが実施されます。
また、温泉施設は、良質な温泉水が湧き出る山沿いにあり、治療を目的として長期に滞在する温泉療養を行う場所としても利用されています。

ハイドロテラピーの効果

ハイドロテラピーには変形性関節症の症状を緩和したり、筋肉の痛みや緊張を和らげる効果があり、腰痛治療にも効果的です。冷水浴は炎症や痛みを軽減し、傷を癒やします。また温かいお湯やスチームは体温を上昇させ、血液循環を促進し、関節炎や月経痛の症状など和らげてくれます。
また、水中での浮力を利用し、怪我や手術後のリハビリテーションプログラムの一環としても利用されています。

スチームバスやスチームサウナは毛穴を開き、老廃物を排出してくれるため、デトックス効果やダイエット効果も期待できます。保湿効果も高く、肌のケアにも効果的です。
そして、水の力によるリラクゼーション効果は、不眠症やストレスを軽減してくれ、精神的な安らぎを与え、心身ともにリラックスさせてくれます。

一方、ハイドロテラピーにも禁忌があります。
温かいお湯に浸かることで血管が拡張する効果があるため、片頭痛がある場合など特定の場合には長時間の温浴は控えたほうが良いと言われます。また、妊娠中の女性や高血圧、糖尿病、心血管疾患の持病がある場合などは、事前に医師に相談するなどして、安全な治療や利用を心がけましょう。

医療との関係

ハイドロテラピーはリウマチや呼吸器系疾患、皮膚疾患や消化器系疾患、婦人科系疾患などの治療に用いられます。特に腰痛など関節の痛みを和らげてくれるため、リウマチや変形性関節症にはハイドロテラピーが一般的な治療法として選択されます。

医師の診断のもとに温泉施設で行う温泉療養は、一定の要件のもとに公的医療保険が適用されます。
また、水の浮力によって身体に負担をかけずに運動やマッサージを行うことが出来るため、運動療法士(kinésithérapeute:キネジテラプート)の指導のもと、怪我や手術後のリハビリテーションの一環としてもハイドロテラピーが活用されています。

タラソテラピーセンターやスパなどでは、水治療法士(hydrothérapeute:イドロテラプート)がプログラムの実践を手助けしてくれます。治療を目的としたプログラムのほか、フィットネスプログラムやダイエットプログラムなども行います。
水の浮力やリラクゼーション効果を活用したハイドロテラピーは、ペットや動物の治療にも取り入れられています。

日々の生活での取り入れかた

ハイドロテラピーは治療を目的とした利用だけでなく、健康増進やリラクゼーション、美容など幅広い目的で利用されています。

長期休暇やバカンスなどを利用して、タラソテラピーセンターやスパなどの施設に長期に滞在し、心と身体をゆっくりと癒してあげるのも良いでしょう。また、山沿いの温泉地へ出かけ、観光を楽しみながら疲労回復を図るなど、季節に応じて海や山で心と身体のメンテナンスを行うこともできます。

週末プログラムや日帰りのプログラムが用意されていることもあるので、気分転換やリフレッシュに利用することも可能です。
普段のバスタイムに温水シャワーやマッサージなどによるケアをプラスすることで、セルフケアを行うこともできます。

日本におけるハイドロテラピー

日本でも、古くから水を利用した治療法が用いられてきました。
日本は温泉が各地にあり、治療や疲労回復、健康予防の目的で利用されるだけでなく、美容効果やリラクゼーション効果を期待して、現在も多くの人々に親しまれています。

水の力を利用した運動療法は、フィットネスクラブやプールを備えた施設などで体験することができます。施設には、サウナやスチームバス、ジェットバスなどが併設されていることもあります。
海沿いの地域には、タラソテラピーが体験できる専門施設や、健康増進を目的とした海水温浴施設が見られ、健康づくりの場として活用されています。

水治療法は、リハビリテーションの一環として医療機関や介護施設でも取り入れられており、治療目的の利用にとどまらず、健康増進や運動機能の維持、生活習慣病の改善などへの活用も期待されています。
水治療法はペットにも効果が認められ、ハイドロテラピーを治療やケアに活用している動物病院もあります。

ハイドロテラピーの費用

水中エクササイズや水中で行うストレッチ運動などのプログラムは、プールがあるフィットネスクラブや健康センター、また公営プールなどでも実施されています。施設利用料とプログラムの利用料とを合わせて数千円で体験できる施設や、その都度施設を利用できたり、ビジター料金を設定しているフィットネスクラブもあります。

ハイドロテラピーはタラソテラピーの中にも取り入れられており、タラソテラピー専用の施設やスパ施設、リゾートホテルなどでプログラムを体験することもできます。
また、ハイドロテラピーとアロマトリートメントなどを組み合わせたコースが用意されていることもあります。

ハイドロテラピーと資格

ハイドロテラピーの知識を活かすには、テラピストとしての活動やフィットネスクラブやプールなどでインストラクターとして活躍することが考えられます。

スパ施設やリゾートホテルなどでトリートメントとハイドロテラピーを組み合わせて行ったり、生活習慣病の予防などを目的としてフィットネスクラブ等のインストラクターとして働く場合には、国家資格は求められません。しかし、ハイドロテラピーに関する専門的な知識や技術を習得していることが求められます。
民間団体が水治療法に関する講座を行ったり、資格の認定を行っています。

水中運動や水中エクササイズ、ストレッチなど、運動機能の回復を目的とし医療行為の一環としてリハビリテーションを行うのは理学療法士です。理学療法士になるためには国家資格が必要です。

ハイドロテラピーは、リハビリテーションの一環として活用されるほか、介護予防や健康増進を目的として、医療や介護の現場での活用も期待されています。 また、ハイドロテラピーはペットの治療にも活用されており、水中トレーニングやリハビリテーションのためにペット専用のプールや設備が整えられた施設を併設している動物病院もあります。こうした専門施設で、ハイドロテラピーの知識や技術を活かして活躍することも考えられます。

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