フランスで問題視される美容医療とエイジングの考え方

2023年3月、フランスのブリュノ・ル・メール経済・財務大臣が、インフルエンサーによる美容医療の広告を全面禁止する法案をまとめることを表明しました。これはヨーロッパ初の試みであることから、大きな話題となりました。この法案が意味するものと、フランス人のエイジングに対する価値観について考えてみましょう。

フランスの美容医療低年齢化

「フランス人女性」という言葉は、多くの人にとってエレガントで自然な美しさを連想させますが、現在フランスの若い世代を中心に、美容医療による市場が急速に拡大し、深刻な問題になっています。
その背景には、カーダシアンファミリーを筆頭としたアメリカのリアリティショーや恋愛バラエティがNetflixなどのサブスクリプションを通じて配信されていることや、アメリカ発のYoutuberやTikTokerによる美容の配信がボーダレスに行われていることが主な原因とされています。

フランスでも美容医療はもちろんエイジングの選択肢として提案されています。しかし、それは40代後半、あるいは50代以降のものと位置付けされています。しかし、SNSやインフルエンサーの積極的な配信や広告案件により、美容医療の若年齢化が加速しました。

また、フランスでは若い頃から性に対する関心も高いことから、若年層のデリケートゾーン形成手術の相談件数が急増しています。しかし、このような手術が思春期における醜形恐怖症を後押しするものであるという懸念が広がっています。フランスの良識ある医師のなかには、一人ひとりの体が違うことを丁寧に伝えながら心理カウンセリングや適切なアドバイスを行っています。しかし、医師によっては来院したクライアントの希望をそのまま受け入れることがあり、問題として指摘されています。

フランスの美容医療における法整備

このような背景を受け、今年3月ブリュノ・ル・メールが経済・財務大臣が、美容医療に関するインフルエンサーによる広告掲載の制限や、症例写真でのレタッチを禁止するなどの法案をまとめることを表明しました。フランスではこれまで、医療・美容医療に関する企業広告は全面禁止されていましたが、今回の法案では一般人による広告や発信にも制限が加えられることになります。このような規制がヨーロッパ全域に広がるのか、もしくはフランスのみの取り組みとなるのか、今後の動向に注目が集まっています。

日本のルッキズムの問題点

日本でも、フランスと同様に美容医療の若年齢化が進んでいます。この現象には、韓国のアイドル・俳優に対する憧れや、男性主権によるアジア圏特有のルッキズム(外見至上主義)の影響が挙げられます。また、小学校低学年に二重まぶた手術を行ったり、脱毛サロンに通わせるという事例が報告されており、これは両親の外見至上主義の考え方が根底にあると指摘されています。
日本でも美容医療に関する規制が厳格化される可能性があり、議論が進められている最中ですが、フランスと比べるとその歩みはやや遅いというのが現状です。

フランス人女性はエイジングを楽しむ

先述の通り、美容医療を選択するフランス人女性はごく少数です。年齢を重ねたフランス人女性は、将来の老いを不安に感じるよりも、今現在を充実させることに意識を向ける傾向にあります。また、個人主義で自己決定権に基づく揺るぎない自信を持っているため、年齢を重ねるごとに、自分自身の外見やスタイルを確立していることが多いのも事実です。美容医療は、自己の象徴となる外見を急速に変化させてしまうため、フランス人女性の考え方にはフィットしないといえるのかもしれません。

また、フランス人女性は専門家のアドバイスを積極的に仰ぐことが得意です。美容やファッションの販売員とコミュニケーションをとりながら、今自分が感じている課題について懸命に解決策を探します。今日を精一杯生きることで、その先につながる明日、そして未来は少しずつ変わっていくという姿勢をとりながら日々の美容ケアを行い、自分の心を満たしています。

正しい知識と自分軸を持つ

人生において最も大切なことのひとつは、心と体の健康です。長期的なコンプレックスを解消するために、美容医療を選択肢に含めることもきっとあるでしょう。

しかし、美容医療にはデメリットも存在します。SNS広告の裏側を正しく理解し、メディアが作るトレンドに左右されない意志を持ち、信頼できるドクターを選ぶことが重要です。普段は慎重な消費者であっても、美容医療のドクターを前にするとコンプレックスを解消したいという思いが先き立ち、正しい判断を下せない場合があります。美容医療は言葉の通り医療行為であり、エステとは異なることを認識する必要があります。

また、トラブル発生後の対応に関する問題もよく報告されています。技術はもちろん、人格にも優れたドクターを選ぶ必要があります。医師のスタッフへの態度やカウンセリングの姿勢、価格や提案の適正さ、トラブルが起きたときの対処方法を予め提案しているか、一貫性のある説明をしているか、美に対する価値観が自分と合致するかなど、多角的かつ慎重に判断する必要があります。

まずは少しずつ、現在自分が抱える悩みや課題に対して、できることがないか周囲を見渡してみましょう。この瞬間を楽しみながらスキンケアをする、街の景色を楽しみながら散歩する、思い切ってヘアカラーを変えてみるなど、今日1日の活動に集中してみることも良いでしょう。そのような積み重ねが、心と体の健やかな状態をもたらしてくれるはずです。

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