フランスで問題視される美容医療とエイジングの考え方
スマートフォンを開けば、フィルター越しに作られた完璧な顔が溢れ、私たちは知らず知らずのうちに「若さや理想の造形」に対する焦燥感を煽られています。美容医療がかつてなく身近な選択肢として定着した今、あふれる情報に流されず、自分自身の心と体を健やかに守り抜くにはどうすればよいのでしょうか。今回は、美容医療の過剰なマーケティングに対して世界に先駆けて厳格な規制を敷いたフランスの事例を紐解きながら、年齢を重ねる過程を誇り高く楽しむ、大人の女性のためのビヤンネートルな美の在り方を見つめ直します。
目次
フランスの美容医療低年齢化
「フランスの女性」と聞くと、年齢に抗うことなく自然体の美しさを謳歌する姿を連想する方が多いかもしれません。しかし近年、フランスにおいても若い世代を中心に美容医療の市場が拡大し、社会的な議論を呼んできました。
その背景にあるのは、アメリカ発のリアリティ番組や、動画プラットフォームを通じてボーダーレスに発信されるインフルエンサーたちの存在です。本来、フランスにおける美容医療は、40代後半や50代以降のエイジングケアの一環として位置付けられるものでした。しかし、SNSによる積極的なPRや広告案件の波が、美容医療の低年齢化を一気に加速させたのです。
特に懸念されたのが、若い世代におけるデリケートゾーンの形成手術の急増や、思春期特有の「醜形恐怖症」を後押ししかねない現状でした。良識ある医師たちが心理カウンセリングを勧める一方で、クライアントの希望をそのまま受け入れ、不要なメスを入れる医師の存在も問題視されました。
フランスの美容医療における法整備
こうした事態を重く見たフランス政府は、2023年春、ついに画期的な決断を下します。当時のブリュノ・ル・メール経済・財務大臣が、インフルエンサーによる美容医療の広告掲載や、加工・レタッチされた症例写真を用いたプロモーションを法律で全面禁止すると表明したのです。医療機関の広告が厳しく制限されていたフランスにおいて、一般のインフルエンサーの発信にまで踏み込んだこの規制は、ヨーロッパ初の試みとして世界中に大きな衝撃を与えました。また、「本当に腕のある医師は広告などに頼るべきではないし頼る必要もない」という考え方から、街中の広告も全面に禁止されています。この徹底した防衛策は、自国の若者たちの尊厳とメンタルヘルスを、利益至上主義のマーケティングから何としても守り抜くという、フランス社会の強い意志の表れに他なりません。
日本に根付くルッキズム
一方、私たちが暮らす日本ではどうでしょうか。美容医療のカジュアル化・低年齢化はフランス以上のスピードで進行しています。韓国美容のトレンドや、アジア圏特有の「若々しさこそが絶対的な価値である」という根強いルッキズム(外見至上主義)がその背景にあります。また、潤沢な資金を持つ美容クリニックが大手テレビ局でCMを打つことも決して珍しいことではありません。
さらに驚くべきことに、近年では小学校低学年の子どもに対して二重まぶたの手術を行ったり、脱毛サロンに通わせたりする事例も報告されています。これは子ども自身の意志というよりも、親世代のルッキズムの価値観がそのまま投影されてしまった結果と言わざるを得ません。
完璧さを手放すフランスの美意識
情報や同調圧力に急かされがちな日本社会において、私たちが参考にすべき考え方は、フランスの大人の女性たちが持つ「自己決定権と個人主義」の精神です。年齢を重ねたフランスの女性たちは、将来の老いを憂うよりも「今、この瞬間の自分をいかに充実させるか」にエネルギーを注ぎます。美容医療によって自己の象徴である外見を急速に変化させてしまうことは、彼女たちの「自分らしさを確立する」という美学にはフィットしません。
その代わり、彼女たちはプロフェッショナルとの対話を非常に大切にします。美容部員やファッションの専門家と積極的にコミュニケーションを取り、いま自分が抱えている肌やスタイルの課題に対して、一緒に解決策を探り当てていく。そうして「今日を精一杯、美しく生きる」ことの積み重ねが、彼女たちの心を満たし、年齢を重ねるごとに揺るぎない自信とエレガンスを生み出しています。
情報に流されない「主体性」が一生ものの美しさを作る
先述の通り、美容医療を選択するフランス人女性は今なおごく少数です。年齢を重ねたフランス人女性は将来の老いを不安に感じるよりも、今現在を充実させることに意識を向ける傾向にあります。また、個人主義で自己決定権に基づく揺るぎない自信を持っているため、年齢を重ねるごとに、自分自身の外見やスタイルを確立していることが多いのも事実です。美容医療は、自己の象徴となる外見やこれまでの人生の選択を急速に変化させてしまうため、フランス人女性の考え方にはフィットしないといえるのかもしれません。
正しい知識と自分軸を持つ
人生において最も大切なことのひとつは、心と体の健康です。長期的なコンプレックスを解消するために、美容医療を選択肢に含めることもきっとあるでしょう。しかし、美容医療にはデメリットも存在します。SNS広告の裏側を正しく理解し、メディアが作るトレンドに左右されない意志を持ち、信頼できるドクターを選ぶことが重要です。普段は慎重な消費者であっても、美容医療のドクターを前にするとコンプレックスを解消したいという思いが先き立ち、正しい判断を下せない場合があります。美容医療は言葉の通り医療行為であり、エステとは異なることを認識する必要があります。
また、トラブル発生後の対応に関する問題もよく報告されています。技術はもちろん、人格にも優れたドクターを選ぶ必要があります。医師のスタッフへの態度やカウンセリングの姿勢、価格や提案の適正さ、トラブルが起きたときの対処方法を予め提案しているか、一貫性のある説明をしているか、美に対する価値観が自分と合致するかなど、多角的かつ慎重に判断する必要があります。
まずは少しずつ、現在自分が抱える悩みや課題に対して、できることがないか周囲を見渡してみましょう。この瞬間を楽しみながらスキンケアをする、街の景色を楽しみながら散歩する、思い切ってヘアカラーを変えてみるなど、今日1日の活動に集中してみることも良いでしょう。そのような積み重ねが、心と体の健やかな状態をもたらしてくれるはずです。
日仏ビヤンネートル協会では、フランスのエスプリを通じて、日本の女性に「引き算の美学」に基づく美しさと健やかさのメソッドを発信しております。美容ケアにとどまらず、フランス人女性ならではの「年齢を重ねるほどに美しくなる」美意識とライフスタイルをテーマとした企業様向けの各種講演・セミナーのご依頼も承っております。お気軽にお問い合わせください。
Text : Nathalie KONISHI/一般社団法人日仏ビヤンネートル協会 代表 ▶︎プロフィール
































































