農薬も規制。有機農法先進国・フランスが60年以上かけて取り組んできたこと
どんな小さなスーパーにも、必ずオーガニック食品が並んでいるフランス。オーガニック先進国には、農業が盛んであるが故に、食の安全性や環境問題に真摯に取り組んできた背景があります。今日はそんなフランスの農業や農薬事情についてご紹介します。
農業大国はオーガニック先進国へ
ヨーロッパ最大の農業大国であるフランス。農林水産省が公開しているデータによると、日本の自給率が40%以下であるのに対し、フランスは120%以上と、非常に農業が盛んなことが分かります。
しかし、裏を返せばそれだけ農薬も多く使われているということ。農薬による土壌・水質汚染、発がん性や胎児への影響など、環境と健康への負荷が課題でした。
そこで注目されたのが、有機農法。いわゆるオーガニック、フランスではBIO(ビオ)と呼ばれています。BIOは、化学的な肥料や農薬に頼らず自然の力で栽培・生産された農産物や加工品、畜産物、乳製品など多岐に渡ります。環境汚染と健康リスクの双方に対するメリットがある有機農法は、課題解決にピッタリな方法でした。
フランスではBIOの導入に向けて、実に60年前から取り組んできました。その過程で認証制度が確立し、化学肥料・農薬を使用しないこと以外にも、3年以上農薬を散布していない農地であること、遺伝子組み換えは取り入れないこと、といった厳しい基準が設けられました。
フランスの法整備と地産地消の考えかた
オーガニックと聞くと、割高に感じてしまう印象があるかもしれません。フランスでは、国を挙げてBIOを全ての国民に提供しようと取り組んでいます。
例えば2020年に、2年以内に学校給食や病院食に最低20%オーガニックを取り入れる法律が施行されました。子どもたちや入院中の患者さんは、どちらも良質な栄養素を必要とする人たちです。彼らにオーガニックを提供する仕組みを作ることは、子どもたちの健康を守ることや食への関心を育むこと、療養者の治癒や食欲の増進の助けになることなど、さまざまな効果が期待できます。
20%とは、1ヶ月の給食の内、1週間弱が完全オーガニックで提供される計算です。普段月1回でも完全オーガニック食を取り入れられているかを考えると、フランスがオーガニック先進国だと言える理由にも納得です。
また、オーガニックを率先しているのは国だけではありません。コロナ禍の影響もあり、フランスでは家庭菜園や地産地消を心がける人たちが増えています。
海外でのロックダウンのニュースは記憶に新しく、フランスもこれを実施した国の1つ。外出が制限され、気軽に買い物に行けないのなら、自分達で作ろう!と、庭先やベランダで始めた人たちが多くいました。その流れもあり、身近な地域で採れたものを消費する、地産地消の動きも出てきています。
輸入食材は輸送時に環境負荷がかかる他、長期間の輸送に耐えうるよう、ポストハーベスト(収穫後に使われる農薬)が必要です。ポストハーベストは栽培時に撒かれる農薬よりも濃度が非常に高いため、健康被害が懸念されています。
このように環境・健康へのリスクが高いものに対して、関心を持つ多くの人たちがオーガニックや家庭菜園、地産地消といった選択肢を取り入れています。
日本で私たちができること
日本では、手軽に安く美味しく食べられるものがたくさんあります。つまり、それらの方が需要が高く、安全性にはまだまだ焦点が当て切れていない実情があります。フランスのように国が積極的に介入する動きもない中、私たち自ら食について知識を深めていく必要があります。
改めて、日本の農業事情についても見ていきましょう。日本は諸外国と比べて、農薬の使用量が多い、と聞いたことがありませんか。その背景には、気候や農産物の種類が起因しています。欧米各国より温暖で湿度も高く、虫が発生しやすい環境下。そして小麦に比べ、米はもともと農薬使用が多い作物です。農薬を使わざるを得ない背景があることは、知っておきたい農業事情です。
そうは言っても、オーガニックは割高だし、農薬を受け入れるしかないのでしょうか?対策の1つは、「農薬を落とす」こと。水洗いも大切ですが、「50度洗い」という方法も有効です。元々は鮮度を保つ方法ですが、水では落としきれない農薬を落とす効果が見込めます。
やり方は、50度のお湯で野菜を洗うだけ。温度計がなければ、冷蔵庫で冷やした水と沸騰したお湯同量で約50度にすることが可能です。ただし43度以下だと雑菌が繁殖してしまうのでご注意を。また、ホタテの貝殻などナチュラルなものを主成分とした専用の農薬落としも市販されているので、こちらだと手間が少なく便利に使えます。ほとんどのものが環境に優しい成分でできているため、その点も安心して使えます。
フランスと日本の違いを見ていると、ついどちらが良い・悪いと判断したくなりますが、大事なのは違いを通して感じたこと・気づいたことを生かしていくこと。例えば、フランスの子どもたちはオーガニックを食べられる環境だけど、我が家も育ち盛りの子どもの分は試しに取り入れてみよう!といったように。今ある生活を基準に、無理なく食の安全を一緒に考えていきましょう。