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仏ファストファッション論争から紐解く、自分軸で選ぶ「ビヤンネートル」なクローゼット
心と体を心地よく、美しい状態へと導くフランス式ライフスタイル「ビヤンネートル(Bien-être)」。今回は、日本でも話題を呼んだ「フランスのウルトラファストファッション論争」を入り口に、私たちがこれからの時代にどう情報を取り入れ、どう美しく生きていくべきか、ウェルビーイングの視点から紐解いていきたいと思います。
目次
パリの老舗百貨店で起きた、美意識と価値観のコントラスト
事の発端は、中国発のウルトラファストファッションブランドが、パリの伝統ある百貨店「BHV(ベー・アッシュ・ヴェー)」に常設ショップをオープンしたことでした。BHVといえば、パリジャンやパリジェンヌの生活に根付く、日本でいうところの西武や阪急のような洗練された百貨店です。その一角に、超低価格で何万点もの衣服を展開する店舗が進出したことで、パリの街は大きな波紋に包まれました。
オープン当日、店頭には「安くてトレンドの服がすぐ手に入る」と期待に胸を膨らませる人々の長い列ができました。しかしその一方で、百貨店の前では環境団体や市民による抗議デモが行われ、営業が一時中断される事態にまで発展したのです。手軽な消費を歓迎する声と、環境負荷や労働問題、そして「文化の破壊だ」と警鐘を鳴らす声。現代社会が抱える価値観の対立が、これ以上ないほど鮮明に浮かび上がった出来事でした。
「正しさ」だけでは測れない、現代社会のリアルな背景
この痛烈な批判の背景には、信じられないスピードと量で服を生産し、大量廃棄を生み出すビジネスモデルへの疑問があります。長時間労働や低賃金、デザインの盗用疑惑に加え、オンライン上での倫理的に看過できない商品の販売問題も重なり、フランス政府が法的措置に動くなど「安さだけでは正当化できない」という機運が高まっています。
しかし、事はそう単純ではありません。フランスもまた、物価や家賃の高騰という深刻な社会問題に直面しています。「10ユーロのTシャツを頼るしかない」「成長の早い子どもの服を頻繁に買い替えなければならない」といった、日々の生活を守るために安価な衣類を必要としている人々がいるのも、紛れもない現実です。また、百貨店側にも若年層の顧客を呼び戻したいという切実な思惑があり、単純な「善悪」の二元論では到底割り切れない複雑さが絡み合っています。
さらに、SNSを通じて凄まじい速さでトレンドが消費される現代において、「安く大量に買い、飽きたら手放す」というサイクル自体がひとつのカルチャーとして定着してしまっている側面もあります。だからこそ現在のフランスでは、個人の倫理観だけを責めるのではなく、ビジネスモデルや社会の仕組みそのものを見直すべきだという、政治レベルを巻き込んだ本質的な議論が進められているのです。
熱狂の終焉 老舗百貨店が直面するアイデンティティの危機
開店直後は「わずか5日間で5万人が来店した」と経営陣がSNSで歓喜するほどの熱狂に包まれたのも束の間。その波は思いのほか早く引いてしまったようです。
蓋を開けてみれば、「オンラインよりも価格設定が高い」とウルトラファストファッションを求める層からは不満の声が漏れ、一方で昔からのBHVを愛する顧客たちは「本来の魅力的な売り場が失われてしまった」と足が遠のく事態に。オープンから2週間が経過する頃には、あの大行列は幻だったかのように、レジを待つ人影すら消えてしまったといいます。
実はBHVは近年、ライフスタイル部門を縮小するなどしてイメージの刷新を図っていました。しかしその裏では、数年前から一部の出店ブランドに対して支払いの遅延が囁かれるなど、経営のひずみが指摘されていたのです。若き経営陣が起死回生のカンフル剤として見込んだ今回の誘致は、皮肉なことに、パリジャンたちが長年寄せてきた老舗百貨店への信頼と、洗練されたブランドイメージを大きく損なう結果を招いてしまいました。
パリの街角で長く愛され、人々の生活に寄り添ってきたBHVは、果たしてこの危機をどう乗り越えていくのでしょうか。日本でも銀座で同じような現象が見られますが、この一連の騒動は、企業がいかにして自身のコアを守りながら時代と向き合うべきかという、ブランドのあり方そのものを問いかけています。
引き算の美容と愛着を循環させるクローゼット
こうした社会の動きや、アイデンティティを見失いかける企業の姿を目の当たりにしたとき、私は「では、自分自身の足元はどうだろうか」と実際の数字とともに振り返ってみました。
私自身が昨年の1年間で新しく購入した衣服や下着類は、数えてみると全部で7着でした。それ以外に迎えた8着は、すべてヴィンテージショップやリユースショップで見つけ出したものです。靴に関しても同様で、海外製の状態の良いものをリユースで手に入れ、メンテナンスを重ねながらできる限り長く愛用するようにしています。
また、最近クローゼットの整理をした際には、思い切って8着の服を手放しました。普段から「いつかまた、誰かの手に渡るかもしれない」という敬意を持って丁寧に扱ってきた服たちだったため、ありがたいことに廃棄されることなく、すべて次の持ち主へと繋ぐことができました。
一度も袖を通さずに捨ててしまう服は一着もなく、「本当に好きなものだけが残っていく」。そんなクローゼットを開けたときの軽やかな心地よさは、まさに私が大切にしている「引き算の美容」や、フランスのエスプリに通じるものがあります。
完璧さよりもしなやかな「自分軸」を大切に
誤解していただきたくないのは、私自身、美しいお洋服もメイクアップも心から愛していますし、新しい魅力的な商品を選ぶときの高揚感を手放すつもりはないということです。
大切なのは、「完璧にサステナブルでなければ」と自分自身を窮屈に追い込むことではありません。自分のライフスタイルやお財布事情と相談しながら、できる範囲で、少しだけ選択の視点を変えてみる。それくらいのしなやかな温度感こそが、自分軸で生きる美しさへと繋がっていくのだと感じています。
今回のフランスでの議論は、「誰が悪いか」を裁くためのものではなく、「私たちはどのような服の選び方をしたいのか」、ひいては「どのような社会を選びとっていきたいのか」を一人ひとりに問いかけています。
皆さんのクローゼットには、昨年どのようなストーリーが刻まれましたか。
何度も袖を通したかけがえのない一枚、あるいは、手放すときに少し胸が痛んだ一枚。ご自身の日常を彩るワードローブの記憶を、ぜひ一度、心地よい時間の中でゆっくりと振り返ってみてください。
※本コラムは、日仏ビヤンネートル協会のフィロソフィーを通じて、日本の女性たちのライフスタイルにフランスのエスプリを取り入れ、より豊かに生きるためのヒントをご提案しています。企業様向け、一般向けの各種講演やセミナー等を通じても、こうした「自分軸のウェルビーイング」のメソッドをお伝えしております。






















































