• HOME
  • ウェルネス
  • 予定はバカンスから埋めていく。フランス人に学ぶ人生を豊かにする休暇の美学と「思い出の配当」

予定はバカンスから埋めていく。フランス人に学ぶ人生を豊かにする休暇の美学と「思い出の配当」

心と体を心地よく、美しい状態へと導くフランス式ライフスタイル「ビヤンネートル(Bien-être)」。今回のテーマは、現代人の多くが手放しかけている“自分のための時間”についてです。
手帳を開くと、仕事のタスクや家族の予定、習い事や打ち合わせで、ページが真っ黒に埋まっていることはないでしょうか。「今年はどこかへ行きたい」と思いながら、気づけば季節が一つ二つと過ぎ去ってしまう──そんな感覚は、現代を生きる多くの女性に共通するものかもしれません。
そんな時、ヒントになるのがフランスの人々の手帳の使い方です。彼らはまず、カレンダーの先のページに「バカンス」の予定を書き込み、そこから逆算して日々の生活を組み立てていく。つまり、「働くこと」と同じくらい、いえ、それ以上に休むことに価値を置いて時間を設計しているのです。
今回は、フランス流の休暇術と、近年世界中で読み継がれているベストセラー『DIE WITH ZERO』が提唱する“思い出の配当”という考え方を交えながら、人生をより豊かに彩るビヤンネートルな時間の使い方を紐解きます。

フランス人がバカンスから逆算する本当の理由

フランス人が長期休暇を心から愛し、その権利を大切にしていることは、よく知られています。彼らの考え方で最も象徴的なのが、「仕事よりもバカンスを優先してスケジュールを立てる」 という姿勢です。まず家族やパートナーと話し合い、カレンダーにしっかりと休暇のブロックを入れてしまう。そして、その休暇を死守するために、周囲と連携しながら仕事の調整を進めていきます。順序が、日本のビジネスパーソンとはまるで逆なのです。
この「バカンス先取り」のスタイルには、精神的な余裕が生まれるだけでなく、極めて合理的なメリットもあります。早めに計画を立てることで、航空券やホテルを賢く手配できるのはもちろん、そこで浮いた予算を、現地での素晴らしいディナーや、極上のスパトリートメント、長く愛用できる一着の買い物といった「体験のアップグレード」に回すことができるからです。
日常の延長で、なんとなく取得する休みではなく、意志を持って休む準備を整える。 その姿勢の根底には、「休暇は労働の余りものではなく、人生そのものの本体である」という静かな確信が息づいています。

何もしないという最も贅沢な時間

休暇の最大の魅力は、深いレベルでの心のリセットができることです。
フランスの人々は、バカンス先で分刻みの観光スケジュールを詰め込むようなことを、ほとんどしません。大自然の中に身を置き、ただ波の音を聞きながら読書を楽しんだり、太陽の光を浴びながらひたすら横になって過ごしたり。観光名所を巡るよりも、同じ場所に長く滞在し、その土地の朝の光や夜のざわめきを身体に染み込ませる。「何もしないことの贅沢」を、心ゆくまで味わう のです。
普段の生活や仕事に追われていると、心は知らず知らずのうちに緊張し、余裕という名のスペースを失っていきます。スマートフォンの通知、頭の中で常に走り続けているTo Doリスト、誰かに返さなければいけないメッセージ。それらから完全に離れる時間を持たないかぎり、心は決してリセットされません。
日常から遠く離れた環境で、ただ流れる時間を味わうように過ごすと、閉ざされていた心に心地よい風が吹き抜け、新しい空間が生まれます。その空間こそが、戻ってきたあとの仕事や暮らしを支える、見えない土台になっていくのです。

『DIE WITH ZERO』が説く“思い出の配当”という考え方

時間の使い方を考えるうえで、近年、世界中の読者に影響を与えている一冊があります。米国のヘッジファンドマネージャー、ビル・パーキンスによる 『DIE WITH ZERO(ダイ・ウィズ・ゼロ)』 です。「ゼロで死ね」という挑発的なタイトルですが、その内容は極めて誠実で、人生における時間とお金の関係を真正面から問い直す思想書でもあります。その中で紹介されている 「思い出の配当(Memory Dividend)」 という概念は、生き方そのものを見つめ直すヒントを与えてくれます。

著者の主張は、とてもシンプルです。物質的な所有物は時間とともに価値が下がっていくが、経験は違う。特に健康で自由に動けるうちに重ねた経験は、その後の人生で何度も何度も反芻され、利子(配当)のように、人生を生涯にわたって豊かにし続けてくれる。 だからこそ、お金は使うべき時期に、ためらわずに「経験」へと転換すべきだ──というものです。
20代でアジアの知られざる街を歩いた記憶。寝台列車に揺られながらヨーロッパを横断した夜。安宿のユースホステルで、貴重品を服の下に忍ばせて眠りについた一夜。その時にしか味わえなかった旅の感触は、年齢を重ねたあとに同じ条件で再現しようとしても、もはや叶いません。けれどもその鮮烈な記憶は、その後の人生で何度も語り直され、書き直され、色彩を増していきます。
お金には換算できない、けれど確かに人生を支え続けるこの感覚こそが「思い出の配当」の正体 です。経験は使えば減るどころか時を経るごとに豊かさを増していく、極めて稀有な資産なのです。

「いつかやりたい」を「今しかできない」に変えるために

ヨーロッパからシベリア鉄道に乗り込み、途方もない時間をかけて大地を横断しながら日本へ帰国した──そんな知人の旅の話を聞いたことがあります。壮大な冒険の話を聞くと、誰もが胸の奥にしまっていた「いつかやってみたい」という小さな衝動を思い出すのではないでしょうか。
そして同時に痛感させられるのは、「ふと心に浮かんだ『やってみたい』という衝動は、まさに『今だからこそできる経験』のサインである」 ということです。
私たちの年齢や体力、そして取り巻く環境は、刻一刻と変化していきます。子どもがまだ手を引いて歩いてくれる年齢、親が一緒に旅に出られる体調、自分自身の体力や好奇心の質も、すべてその瞬間にしか存在しない条件です。だからこそ「どこかへ行きたい」「新しい景色を見たい」「あの人ともう一度会いたい」と心が動いたその瞬間を逃さず、行動に移すことが何よりも重要です。
その時にしっかりと瞬間を掴み取った経験だけが、未来の自分へ贈る豊かな「思い出の配当」となります。逆に、「いつか、もう少し落ち着いたら」と先延ばしにしているうちに状況のほうが変わってしまうことも少なくありません。
完璧なタイミングはおそらく一生やってきません。 けれど「今のベストなタイミング」は、いつだって今この瞬間にあります。

手帳の先に自分を喜ばせる予定を置く

少し先のカレンダーをめくってみてください。夏のバカンスシーズン、秋の連休、年末年始の静かな旅。日常を離れるチャンスは、必ず待っています。
直前になって慌てるのではなく今の段階から 「次はどこに行きたいか」「どんな新しい経験をしてみたいか」 を思い描き、少しずつ計画を練り始めてみる。手帳の先のページに自分を喜ばせるためのバカンスが待っているという事実だけで日常の中に確かなワクワク感が生まれ、今日という一日を頑張るための静かで美しいエネルギーへと変わっていきます。
休暇は忙しさのご褒美ではありません。 休暇こそが人生の本体であり、日々の暮らしを意味のあるものにしてくれる灯り なのだと、フランスの人々は教えてくれます。
新緑が美しいこの季節。まずは手帳を開き、数ヶ月先のページに小さく「Vacances(バカンス)」と書き込んでみる。その小さな一筆から時間の流れ方が、確かに変わり始めるはずです。


日仏ビヤンネートル協会では、仕事やタスクに追われる日常から少しだけ距離を置き、心に豊かな余白を生み出すフランス流のウェルビーイングなメソッドを発信しております。自分自身を労わり、人生の質(QOL)を高めるための各種講演や企業様向けセミナーのご依頼も承っております。どうぞお気軽にお問い合わせください。
Text : Nathalie KONISHI/一般社団法人日仏ビヤンネートル協会 代表 ▶︎プロフィール

News Letter
ニュースレターの登録


フランスの最新情報や協会プログラムの先行案内などを月1〜2回程度お届けします。

ご登録いただいた情報は、ニュースレターの配信にのみ使用いたします。情報の取り扱いについての詳細は、プライバシーポリシーをご確認ください。

関連記事