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METガラ2026速報。「Fashion Is Art」が示したすべての身体への賛歌

毎年5月の第一月曜日にニューヨークのメトロポリタン美術館(通称MET)で開催される、世界最大のファッションの祭典 「METガラ(Met Gala)」。2026年は5月4日(現地時間)、ビヨンセ、ニコール・キッドマン、ヴィーナス・ウィリアムズ、そしてアナ・ウィンターの4名を共同議長に迎え、これまでの「誰が一番派手で目立つか」というレッドカーペットのパブリックイメージを、静かに、そして力強く覆す、極めてコンセプチュアルで知的な一夜となりました。
そもそもMETガラは、METの服飾研究所(Costume Institute)が手がける春の特別展覧会のオープニング・セレモニーであり、同部門の年間運営資金を調達するための重要なベネフィット(慈善イベント)でもあります。つまり、レッドカーペットの華やかさの背後には、必ずその年の展覧会という「学術的な核」が存在しているのです。

今年の展覧会テーマは 「Costume Art(コスチューム アート)」、それに対応するガラのドレスコードは 「Fashion Is Art(ファッションは芸術である)」。
「衣服は自分を偽るための鎧ではなく、本来の美しさを表現するツールである」という日仏ビヤンネートル協会の理念にも深く通じる今年のMETガラについて、海外メディアの報道を交えながら、ビヤンネートルな視点で紐解いていきます。

MET史上最も意欲的な「Costume Art」展とは

今年のMETガラは、Costume Instituteが手がける春の新展覧会 「Costume Art」 のオープニングを祝う一夜として開催されました。
METの公式発表およびBBC、NPRの報道によると、この展覧会は 約12,000平方フィート(約1,115㎡)の新設「Condé M. Nast Galleries(コンデ・M・ナスト・ギャラリー)」のオープニングを飾る象徴的な企画です。会期は2026年5月10日から2027年1月10日まで、約8か月にわたる大規模な展示となります。
その中身もまた、画期的なものです。約5,000年にわたる美術史の中から、衣服・アクセサリー・美術作品が約400点並置され、絵画や彫刻と衣服が同じ空間で対話するように配置されています。キュレーターのアンドリュー・ボルトンが構想したのは、衣服をまとう身体がいかに美術の中心にあるかを示すこと。VOGUEが報じているように、ファッションはもはや単なる消費財ではなく、絵画や彫刻と同じく「鑑賞と解釈に値する芸術表現」として、美術館の中心へと押し上げられたのです。

ドレスコード「Fashion Is Art」がゲストに求めたもの

ドレスコードの 「Fashion Is Art」 は、参加ゲストに対して「自分の衣装を、身体化された芸術として解釈し、美術史の中で描かれてきた『着衣する身体』の数々への賛歌として表現すること」を求めました。
近年、SNSの普及により、ファッションイベントはともすれば「どれだけ奇抜でSNS映えするか」という表面的な競争に陥りがちでした。しかし、今年のMETガラはまるで違います。「VOGUE」誌は、このドレスコードが衣服をキャンバスのように扱い、身体の形や構造、存在感を強調するスタイルへ導く指針であると説明しています。彫刻的なシルエット、デザイナーと現代アーティストのコラボレーション、ギリシャ・ローマの彫像を想起させるドレープ、絵画の名作を翻訳した一着──表現の幅は、これまで以上に大きく開かれました。つまり、2026年のMETガラの見どころは「誰が一番豪華か」ではなく、「誰が最も深く概念を翻訳し、衣装で自身の思想を語れるか」 という、極めて知的な領域へとシフトしたのです。

妊娠、加齢、障がい──歴史が見落としてきた身体への光

そして、今年の展覧会の真の革新性は、その身体観にあります。AP通信の独占取材によれば、「Costume Art」展は最初のメインギャラリー 「Bodily Being in its Diversity(多様性のなかの身体存在)」 から始まり、以下のような、これまで美術史において主流ではなかった身体カテゴリーを正面から扱っています。

The pregnant body(妊娠した身体)
The corpulent body(豊満な身体)
The disabled body(障がいのある身体)
The aging body(年齢を重ねた身体)

これらのセクションでは、実在する多様な身体を持つ人々をモデルにした新しいマネキン群が登場し、それぞれの身体の輪郭と尊厳を、美術と衣服の両面から讃えています。「The aging body」のセクションには、「I'M RETIRED. (This is as dressed up as I get.)」とプリントされた巨大なグレーのフーディも展示されているといい、その遊び心のなかにも、年齢を重ねることへの肯定的なまなざしが滲みます。
ボルトンは、「妊娠した身体は、これまで美術史のなかで無視されるか、隠されるか、過剰に神秘化されてきた」 と語っており、それぞれの身体に正当な視覚的場所を与え直すことが、今回の展覧会の重要な使命であると明言しています。これは、MET史上もっとも意識的にボディポジティブな展示として、すでに多くの海外メディアで語られています。

共同議長たちの衣装が語った「身体と芸術の対話」

今年のMETガラの開幕を彩ったのは、4名の共同議長と1名の名誉共同議長による、それぞれが「身体と芸術の対話」を翻訳した装いでした。
アナ・ウィンター氏は、コンデナスト社のチーフ・コンテンツ・オフィサーとして、そして1995年からMETガラを統率してきた女王として、シャネルのクリエイティブ・ディレクターであるマチュー・ブラジー(Matthieu Blazy)による ミントグリーンのフェザーケープとビーズドレス で登場。トレードマークのボブと大ぶりのサングラスを合わせた装いは、デザイナーの新世代と長年の盟友的存在のクラシックさが見事に融合した一着でした。ヴィーナス・ウィリアムズは、夫アンドレア・プレティを伴って登場。スパークリングなオフショルダーの黒のガウンに、宝石をあしらった大ぶりのネックレスを纏った彼女の装いは、ナショナル・ポートレート・ギャラリーが所蔵する、画家ロバート・プルーイットによる自身の肖像画へのオマージュでした。「自分自身が芸術として描かれた瞬間」を、衣装で再演するという極めて知的な解釈です。ニコール・キッドマンは、議長らしい落ち着きのあるシルエットで凛とした静謐を体現。
そして名誉共同議長を務めたローレン・サンチェス・ベゾスは、スキャパレリのフォームフィッティングなガウンを選択。「VOGUE」誌に対して、彼女自身が「ジョン・シンガー・サージェントの1884年の傑作《マダムX》にインスパイアされた一着」と語っています。スキャンダラスな美と女性の身体の主体性を象徴した絵画を、現代に翻訳するという挑戦的な選択でした。
そして本夜、最も注目を集めた一人が、実に10年ぶりにMETガラへ復帰した共同議長ビヨンセ。2016年以来となるレッドカーペット帰還は、それ自体が歴史の一場面として世界中のファッション・メディアの記憶に刻まれました。

フランス勢、BLACKPINK、アン・ハサウェイ──多様な解釈が競演

レッドカーペットには、世界中から多彩な才能が集結しました。
フランスからは、シャルロット・ゲンズブール(セルジュ・ゲンズブールを父に持つ、フランスを代表する女優・歌手)、仏米をルーツに持つリリー=ローズ・デップ、そして特筆すべきはホストコミッティのメンバーとして招かれた歌手 イゾルト(Yseult) の存在です。プラスサイズの身体を堂々と讃え、自らをアートそのものとして表現してきた彼女が今年のホストに選ばれたことは、まさに 「Costume Art」展のテーマ そのものを体現する人選であったと言えるでしょう。また、サンローランのクリエイティブ・ディレクターである アンソニー・ヴァカレロ は、ゾーイ・クラヴィッツとともにホスト・コミッティの共同議長を務めました。

K-POPからは、BLACKPINKのリサが登場。「ロバート・ウン(Robert Wun) 」によるシアーなガウンを纏い、3Dプリントで再現された自身の腕がビーズで装飾されたフードを支える という、極めて前衛的なルックを披露しました。「身体そのものを彫刻として提示する」というドレスコードへの、最も大胆な解釈の一つだったと仏版「マリ クレール」誌は評しています。同じくBLACKPINKからはロゼやジェニーも参加し、注目を集めました。
そして、6月公開予定の映画 『プラダを着た悪魔2』 で再びアンディ・サックス役を演じる アン・ハサウェイ も、満を持しての登場。劇中のミランダ・プリーストリー(アナ・ウィンターをモデルにしたキャラクター)を彷彿とさせる装いで、原作との見事な呼応を見せました。
そのほか、マドンナ、リアーナ、シェール、カーディ・B、ケイティ・ペリー、ケイト・モス、ブレイク・ライブリー、ドナテラ・ヴェルサーチェ、バッド・バニー、カイリー・ジェンナーなど、世代もジャンルも異なるスターたちが、それぞれの方法で「Fashion Is Art」を翻訳。多様な身体、多様な芸術解釈 が一夜のうちに集った様子は、まさに今年の展覧会のテーマと完璧に呼応するものでした。

ルッキズムへのもっとも美しい回答

「どの身体を、どの視点で、どのように見せるか」。これはまさに、現代社会が直面しているルッキズム(外見至上主義)への、ひとつの美しい回答です。ファッションとは、特定の完璧なプロポーションだけを引き立てるものではなく、あらゆる年齢や体型、ジェンダー、身体能力の身体を包み込み、それぞれを唯一無二のアートとして肯定するための文化資本なのです。
「ニューヨーク タイムズ」誌も、今回のドレスコードが意図的に幅広く設計されており、参加者一人ひとりが自身のファッションと美術の結びつきを語れる余白を持っていると報じました。BBCもまた、METガラを単なるファッションの祝祭ではなく、メトロポリタン美術館の重要な資金調達イベントであると同時に、文化的な議論を生み出す場として位置づけています。2026年のMETガラは、「ファッションは芸術か」という古い問いに答えるものではなく、「どの身体が、芸術として見られるに値するのか」 という、より本質的な問いを世界に投げかけたといえるのです。

私たちの日常における「Fashion Is Art」

レッドカーペットを歩くことのない私たちにとっても、このメッセージは決して遠い話ではありません。毎朝クローゼットを開け、その日の気分や体調、気候に合わせて衣服を選び、自分の身体を包み込むプロセスは、それ自体が 「日常のアート」 そのものです。妊娠中の身体も、年齢を重ねた身体も、何らかの不自由を抱える身体も、すべては美術史と地続きの「賛歌に値する身体」なのだという視点に立つだけで、鏡の前の自分との関係は確かに変わり始めます。
トレンドに無理に身体を合わせるのではなく、自身の身体を尊重し、心地よく美しく見せてくれる衣服を纏うこと。それこそが、心と体を満たす、もっともビヤンネートルなファッションの楽しみ方です。
世界最高峰の祭典が示したこの「すべての身体への賛歌」を、ぜひ明日の朝のクローゼットの前で、思い出してみてください。


【日仏ビヤンネートル協会からのお知らせ】
日仏ビヤンネートル協会では、社会のルッキズムから自身を解放し、ファッションや美容を「自分を称えるための表現」として楽しむフランス流のウェルビーイングなメソッドを発信しております。自分軸で美しく年齢を重ねるための各種講演や企業様向けセミナーのご依頼も承っておりますのでどうぞお気軽にお問い合わせください。
Text : Nathalie KONISHI/一般社団法人日仏ビヤンネートル協会 代表 ▶︎プロフィール

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